国営諫早湾干拓事業(長崎県)の潮受け堤防排水門の開門をめぐって、確定判決を守らない国に対し制裁金として1日49万円を債権者である有明海の漁業者らに支払うように命じた佐賀地裁の間接強制の決定を不服とした国の抗告について、福岡高裁が6月6日に決定を出すことがわかった。漁業者側弁護団が5月30日、佐賀市内で明らかにした。
6月11日には制裁金の支払い猶予期限を迎える。翌日以降、国が開門しなければ、開門するまで制裁金を支払い続けなければならず、その額は1年間で約1億7,900万円にのぼる。漁業者側弁護団は「万が一にも開門を命じた福岡高裁が、その判決を守らないことを許せば、司法制度の崩壊、自殺行為だ」と指摘。開門の実現と有明海再生へ向けて、「力を結集して、一気に勝負をつけよう」と呼びかけた。
30日は、佐賀地裁(波多江真史裁判長)で、国が漁業者らに確定判決に基づく間接強制の請求権はないとの確認を求めた請求異議の第2回口頭弁論があった。請求異議は、強制執行によって実現しようとする権利があることに異議を唱え、その請求権に基づく強制執行を排除する訴え。
弁論では、主任裁判官が、早くも争点に関して、国・漁業者双方の主張を確認、迅速審理の姿勢を見せ、国側も「(審理を)早めに進めてほしい」と表明。漁業者側も審理の迅速化に応じる構えだ。
弁論後の報告集会で漁業者は「国の事業によって漁業被害を受けている私たちがどうして被告にならなければいけないのか」(佐賀県太良町の平方宣清さん)、「国の言い分を聞いていると、漁師がいなくなるのを待っていると思える」(福岡県柳川市の荒巻弘吉さん)と怒りの声を上げ、1日も早い開門を訴えた。
<請求異議審、3つの争点>
裁判所は同日、大きく分けて3つの争点を示した。
第1は、違法状態をめぐる問題で、国は「確定判決は開門を3年間猶予し、対策工事が終わらない限り違法状態が生じない」と主張。漁業者側は「違法なのは、漁業被害が起きていることであり、開門しないことではない。確定判決は、被害を取り除くため開門を命じたもので、違法状態は結審時点から続いている」と反論している。
ほかの2つは、確定判決が履行できない「新たな事情」をめぐるものだ。
その1つは、国の主張では、開門による被害を防ぐ対策工事への反対があって、工事ができていず、対策工事なしに開門すると農業被害が起きることがアセスで明らかになっているというもの。裁判所は、確定判決の結審後に生じた新たな事実を特定するように求めた。
もう1つは、開門差し止めの長崎地裁仮処分決定が出たというのが国の主張だ。漁業者側は、確定判決と仮処分決定は「義務が衝突したものではない」と反論。「仮処分決定は、対策工事ができていないので開門を禁じた。対策工事を禁じたものではない。対策工事をやれば、仮処分の効力の前提事実がなくなる」と指摘。仮処分決定が異議理由に当たらないことについて、次回まで詳細に反論する予定。
弁護団は弁論後、「国は裁判所での協議に応じ、対策工事が着手できるように取り組むべきだ」と求め、開門に反対する住民らに開門によって起きる問題を解決する具体的提案をしながら、話し合う機運をつくり、開門反対派と一緒に「薩長同盟」をつくりたいと表明した。
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