まだ肌寒さを感じていた4月19日、中洲では「異例」と言える子ども向けイベントが開催された。夜は多くの大人が行き交うメインストリート・中洲大通りに、子どもを対象としたアトラクションや飲食ブースが集結。福岡県内外のゆるキャラによるパレードなども催された。その目的の1つは、誰もが安心して歩ける街であることをPRすること。前日に、近隣の商業施設で人気アニメのテーマパークがオープンしていたこともあって集客は上々。夜の街・中洲のイメージアップにも期待を寄せられた。
しかし、それから1カ月と絶たないうちに、その期待を雲散させてしまう事件が起きた。子ども向けイベントの会場からほど近い中洲3丁目のビルを警視庁が捜査。約50台の違法パチスロが押収されたのである。さらに、捜査が行なわれたテナントの借主が西アフリカ・ガーナ共和国の日本大使の名義であったことで話題となり、全国的にも報道された。違法賭博には反社会勢力のイメージがつきまとう。
ガーナ大使の関与はさておき、借主がいる以上、貸した人間がいる。違法賭博が空きテナントで勝手に営業していたはずがない。夜がメインの歓楽街で、賭博や風俗の違法営業は珍しい話ではないが、街が大きくなるなかで、健全化の取り組みがなければ、一気に街は無法地帯と化し、人が寄り付かなくなり、まともな店も廃業となる。今回、小生は、中洲に腰を据えて商売をする不動産業者を1軒ずつ訪ねて話を聞いた。戦後急速に発展した中洲を長く見続けてきた、(株)榎本興産、橋本不動産、(有)中洲Fビル、ライン不動産(株)。どこも口を揃える。「ビルの資産価値を下げる違法営業は絶対にテナントに入れない」と。中洲ビジネスの持続と発展のためにも、常に街の健全化を意識していた。
問題のビルは、屋主が変わり、リニューアルされ、新たなテナントビルとして注目されていた物件であった。一体、どうして違法パチスロが中洲に入り込んでいたのか。今回取材した4社は業務連携を行なう「中洲・不動産ネットワーク」を結成しており、全社合計で1,200件以上の管理物件を持っている。約2,500のテナント数の半分程度であり、残りは他所の不動産業者が取り扱っている。"商売の入口"の部分をチェックしている「中洲の不動産屋」が知らないところで『闇』が生まれているのだ。後のことを考えず、借り手の言い分を鵜呑みにした仲介が生み出したとも言える。
1~2階に入るキャバクラ店を仲介した某不動産業者は、「うちが仲介したという噂が出回り、迷惑している」と憤慨していた。ただし、NET-IBの取材に対して、ガーナ大使館の代理人と名乗る人物から問い合せを受けたと話す。「捜査を受けたビルの3~6階部分は取り扱っていない」としたうえで「あやしいと思ったので断った」という。しかしながら、その経緯が情報として、警察も含めて同業者に共有化されていれば、犯罪を未然に防げたのではないだろうか。最も罪が問われるのは違法賭博を開いた人間であるが、今後、警察にとってはイタチゴッコにならないよう、街にとっては健全化を図るために、中洲への侵入ルートを明らかにしておくべきだろう。
違法賭博は大抵レートが法外であり、負けが込んだ人間が強盗や詐欺などの犯罪に走るという話は珍しくない。「ルーレットで大負けしたと言ってやけ酒していた客が、翌日、夕方のニュースに出た。強盗だったよ」という話を耳にした。多くの人が楽しめる「元気で安全な街」であるためには、犯罪という『闇』を作る『闇』を照らさなければならない。
▼中洲の不動産屋シリーズ
・中洲の不動産仲介は「金よりも人」 (株)榎本興産
・中洲不動産業、2代目が守る『信頼』 橋本不動産
・ビルづくりから始める中洲の健全化 (有)中洲Fビル
・中洲・不動産業者の連携で健全化! ライン不動産(株)
<プロフィール>
長丘 萬月 (ながおか まんげつ)
福岡県生まれ。海上自衛隊、雑誌編集業を経て2009年フリーに転身。危険をいとわず、体を張った取材で蓄積したデータをもとに、働くお父さんたちの「歓楽街の安全・安心な歩き方」をサポート。これまで国内・海外問わず、年間400人以上、10年間で4,000人の風俗関係者を『取材』。現在は、ホーム・タウンである中洲に"ほぼ毎日"出没している。
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