<インフラが未整備で、停電は日常茶飯事である>
――理事長は、現在インド、タイ、ベトナム、カンボジア、ミャンマー、バングラデシュからモンゴル、スリランカ等の日系企業の経営者にインタビューして報告書にまとめている最中と聞いています。現状を少しお聞かせ頂けますか。
藤原 「チャイナ・プラスワン」で出て行った日系企業の現状を分析、アジアをはじめ、海外進出する日本企業の参考になればと考えています。それは、中国の人件費が上がったので(ここには誤解があり、実際は沿海部、内陸部、さらに奥地まで含めると大きな差があります)、「アジアのどこかにいいところはないか」という感覚で出て行っても成功するはずがないからです。
「チャイナ・プラスワン」という国々で現在浮き彫りになってきた問題点は大きく分けて3つあります。
1つ目は、インフラ未整備の問題です。電力不足で停電が日常茶飯事な国も多くあります。インドでは州ごとに道路の幅が大きく異なり、隣の州に部品を納入する場合には州の税関を通ります。
2つ目は、裾野産業がまったく育っていないことです。ベトナムのダナンの進出した電子関連メーカーは、部品をほぼ100%輸入に頼ることになり、採算が合わず撤退しました。私の知る限り、その他の国でも、特に地方都市に行くと、日本製品のレベルに合う裾野産業が全く育っていません。
<中国地方都市で、日本のシルバー人材が活躍>
――中国では、北京、上海とかの大都市以外でも、裾野産業は育っているのですか。
藤原 中国では、どんな地方都市に行っても地元の優良な部品メーカーが存在します。日本からシルバー人材の方が雇われていて、とても品質の高いいい部品を作っているケースも多くあります。
私がお会いした70歳のとても優秀なエンジニアは、九大工学部を出て造船会社に勤務、定年後65歳で中国に渡り5年以上勤務しておりました。このようなシルバー人材はハルピンにも、重慶にも、大連にもたくさんいて、技術指導等で活躍されています。
<インドでは国内用と海外用に分け、部品製造>
部品に関してですが、タイ、ベトナムはもちろん、インドでさえ日本製品のレベルに到達できる地元部品メーカーは、ほとんどありません。
あるインドの現地部品メーカーはインド国内販売用の部品工場と海外販売用の部品工場に分けて生産していました。家電部品だけでなく、自動車部品から原子力発電所に使う部品まで幅広く生産していた工場なので、少し怖い気がしました。
インドに進出した日系自動車会社の工場内には、インドの部品メーカーから調達して使えない部品が山のように積み上げられているのを目にしました。現地メーカーにおける不良品の確率は3割から4割と言われております。
<1年でほぼ全従業員が辞めたベトナムの日系工場>
3番目の問題は人材に関する問題です。どの国も高いレベルの人材(ホワイトカラー等)は一様に優秀でそのレベルも変わりません。ここではブルーカラー、工場労働者に限ってお話致します。
ベトナム・ダナンのある日系企業経営者はとても厳しい見方をしていました。ベトナムにはたくさん大学があるのですが、その実力差があまりにも大きいのです。大学を出て割り算ができないことは珍しくないという話でした。
インドのある日系企業の技術訓練は、英語とドラヴィダ語の2カ国語で、つまりすべてにおいて2回行なう必要があるということでした。
総体的に、「チャイナ・プラスワン」と考えられている国々の若い人材の労働感覚は日本や中国などとまったく違います。「言われたことのみをやる」ことが基本で、自ら動くことはありません。ベトナムのある日系工場では、1年でほぼ全員が辞め、カンボジアのある台湾企業の工場では転職率が1カ月7%でした。これでは、1年で7割から8割の従業員が入れ替わることになります。
<プロフィール>
藤原弘氏(ふじわら・ひろし)
1947年広島県因島市生まれ。70年関西大学法学部卒業後、日本貿易振興会(ジェトロ)入会。ロンドンに4年、香港に5年(香港センター次長)、大連に1年(事務所長)の海外駐在を経験。ジェトロ時代は中国、東南アジアの奥地まで足を運ぶ熱血の調査マン。
東京中小企業投資育成(株)国際ビジネスセンター所長を経て、09年NPO法人アジアITビジネス研究会理事長に就任。認定NPO雲南聯誼協会経営企画室長他を兼任している。
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