<機能や構造より政治力>
第1回から第3回までの国立競技場将来構想有識者会議の議事録を見ると、2012年3月6日の第1回会議の冒頭、日本スポーツ振興センター(JSC)の河野一郎理事長が「スポーツ界長年の夢であった国立競技場改築の方向性が決まり、国から調査費がついた」として、この時点ですでに改修案が立ち消えになっていることがわかる。
建て替えの根拠として、河野理事長は会議のなかで「国立霞ヶ丘競技場の八万人規模ナショナルスタジアムへの再整備に向けて(決議)」という資料を提示。それに基づき「8万人規模をスタートラインに」することが決められている。この決議は、2011年2月15日、「ラグビーワールドカップ2019日本大会成功議員連盟」によって採択された。
ラグビー議連は、09年7月に日本でラグビーワールドカップが決まり、10年11月に設立されている。
改めて振り返ると、JSCが久米設計に改修基本計画を依頼したのが10年7月30日で、ラグビー議連設立前。このときは、まだ改修の可能性を模索していたことがわかる。そして、計画書がJSCに提出されたのが11年3月25日。つまり、計画書が正式に出される1カ月前に、ラグビー議連の政治力によって改修案が立ち消えになったことがわかる。
JSCは、久米設計の計画書にある、「今後大規模な国際競技大会の開催を視野に入れた場合、(中略)改修にとどまらず施設全体の建替えを視野に入れた抜本的な見直しが必要」という文言を引き合いに、改修に転じたとする。だが、それは時系列から見ても、後付けの論理だろう。
なぜ、これほどラグビー議連が政治力を持ちえたのかは、以下の設立時メンバーを見ればよくわかる。歴代首相や国家議長経験者が名を連ねている。
[顧問]
横路孝弘(衆議院議長、無)、江田五月(民)森喜朗(自)、安倍晋三(自)、福田康夫(自)、麻生太郎(自)、鳩山由紀夫(民)
[会長]
西岡武夫(無)
[副会長]
中谷元(自)、井上義久(公)、園田博之(た)、下地幹郎(国)、重野安正(社)、浅尾慶一郎(み)、穀田恵二(共)、樽床伸二(民)
[幹事長]
遠藤利明(自)
[幹事]
礒崎陽輔(自)、佐藤信秋(自)、北村誠吾(自)、宮本岳志(共)、富田茂之(公)、藤井孝男(た)、竹本直一(自)、吉田博美(自)、松山政司(自)、大西孝典(民)、森本和義(民)
[事務局長]
石森久嗣(民)
[事務局次長]
松下新平(自)、山本剛正(民)柿沢未途(み)
新国立競技場問題は、よく2020年東京オリンピック・パラリンピックと結びつけて論じられるが、本質的にはラグビーとの結びつきが強固なのだ。逆に言えば、陸上競技場やサッカー場、文化イベント施設としての機能面や、それを実現する構造面は、コンペ時にはほとんど考慮されていなかったと考えられる。
つまり、基本設計が終了した段階で、1つの陸上競技場としての構造的問題が噴出する可能性が大いにあるということだ。
≪ (4) |
※記事へのご意見はこちら