<後継体制は長男でほぼ確定>
しかし、その結論は意外に簡単だ。
すでに会長の後継者と見なされているのは、前回の「ホームラン記事」にも登場したサムスン電子の副会長で、イ会長の長男で1人息子のジェヨン氏であるからだ。彼が会長に昇格すれば、創業者で、38年に三星商会を設立した秉喆(ビョンチョル)氏から、数えて3代目の世襲になる。きわめて順当な人事である。
ジェヨン氏は生まれながらのプリンスだ。ソウル大学で歴史を学び、慶応大学でMBA(経営管理学修士)を取得、米ハーバード大の経営大学院に進んだ。日本語、英語ができる。2011年に行なわれたアップルのスティーブ・ジョブズ前最高経営者(CEO)の葬儀にも招かれた。12年にサムスン電子社長から副会長に昇格。同社のスマートフォン「ギャラクシー」の出荷台数が「iPhone」を抜き、スマホ事業を成功させたことが、その理由に挙げられた。
聯合ニュースによると、5月12日の株式市場はグループ中核のサムスン電子の株価は前日終値比3.97%上昇したが、一方で、サムスンSDIなどグループ系列会社17社のうち10社は下落した。「イ会長の健康不安が浮上したことにより、経営権継承作業が加速化すると見られ、系列会社の株価は不安定な値動きが続く可能性も指摘される」と分析している。
しかし実際には「皇帝不在」も、短期的な経営には影響がないというのがもっぱらの観測だ。後継者のジェヨン氏が、同グループ未来戦略室の崔志成(チェ・ジソン)副会長(63)の2人で経営方針を相談し、イ会長が決裁を下してきた。「当面、このツートップ体制で乗り切るので、大きな経営方針の変化はないはずだ」と言われる。
一族の財産は、聯合ニュースが伝えたところによると、株や不動産を含めて保有財産は計20兆6,090億ウォン(約2兆580億円)に上る。イ会長の保有財産は12兆8,750億ウォン。ジェヨン氏はこれに次いで、3兆9,640億ウォン。会長の長女のプジンさん(ホテル新羅社長)が1兆1,290億ウォン、次女のソヒョンさん(エバーランド・ファッション部門担当社長)が1兆640億ウォン持つとされている。
後継構想は、ジェヨン氏が電子関連や金融、プジン氏がホテルや建設、ソヒョン氏がファッション・アパレルとメディア。本人の得意分野を中心に事業再編がなされる。ポスト李健煕体制を安定的に運営していこうと動いているわけだ。
韓国の国内総生産の2割を占めると言われるサムスングループ。朝鮮日報の社説は、サムスンの支配構造の変化が長期にわたり不透明になったり、再編戦略に異常が起きれば、「韓国経済に少なからぬ影響が生じかねない」と警告する。創業者ビョンチョル氏の財産をめぐり、兄弟間の相続争いの訴訟があったのは有名な逸話だ。これはイ会長が勝訴し、昨年冬に決着したばかり。産経も指摘するように、同じ轍を踏まむように円滑に相続と経営が継承できるかはサムスンの重大な課題だが、これは賢明な判断が下されると見るのが順当であるに違いない。
≪ (前) |
<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授を歴任。2007年4月から大分県立芸術文化短期大学教授(マスメディア論、現代韓国論)。
メールアドレス:simokawa@cba.att.ne.jp
※記事へのご意見はこちら