5月末から6月に暦が変わった先週末の日本列島は、暑く、そして熱かった。梅雨入り直前、連日の真夏日。加えて、脱原発派と原発推進派が、九州電力川内原発(鹿児島県)の再稼働をめぐる山場を前に、一足早い夏の攻防を繰り広げたのだ。かたや、生存権と人格権を賭けて。かたや、経済を建前とした原子力利権を賭けて。
<原発推進派、安倍政権をけしかける>
「原子力国民会議」は6月1日、九州に乗り込んできて、九州電力のお膝元、福岡市で集会を開き、再稼働へ向けて気勢をあげ、原子力規制委員会の審査を急がせるように政治介入するよう安倍政権をけしかけた。5月末から6月にかけて全国集会が目白押しだ。
原発の再稼働をめぐっては、原子力規制委員会が新規制基準の適合性審査で、川内原発を優先すると決めて、審査中だ。川内原発を突破口にして、再稼働が相次ぐと懸念される。
再稼働への動きを制したのが、5月21日の福井地裁の大飯原発3、4号機の運転を差し止めた判決だった。「経済的利益よりも人格権」、つまり「カネより命」である。「福島のような事故を2度と起こさない」という視点で原発の運転差し止め判決が出された後では、原発推進派の論理は説得力を失った。安倍政権をけしかけても、「出し遅れの証文」にもならない。
<鹿児島だけの問題ではない>
脱原発派は、同判決に勇気づけられて、突破口とされる川内原発再稼働の阻止へ勢いづいている。
東京では6月1日、脱原発を求める市民らが首相官邸前や国会前で集会を開いて、再稼働阻止をアピールした。
鹿児島では、川内原発の操業差し止めを求めた「原発なくそう!九州川内訴訟」の原告らが5月30日、鹿児島地裁に再稼働の差し止めを求める仮処分を申し立てた。
「再稼働は、営利、利益を得るための理屈。(福島事故で示された)これだけのリスクを抱えて、本当の道徳心を持っていれば、再稼働できない」。福島県双葉町の井戸川克隆・前町長は、6月1日、熊本県水俣市で開かれた緊急集会で訴えた。緊急集会は、川内原発の再稼働が30キロ圏内や鹿児島県だけの問題ではないとして、原子力市民委員会と脱原発をめざす首長会議などが開いたものだ。水俣市は、川内原発から約40キロの距離にあり、原子力災害時には、鹿児島県出水市から約6,000人を受け入れることになっている。
<井戸川前町長「避難は、過去現在未来を捨てること」>
「避難は、過去現在未来を捨て、去ること。片道切符だ。避難生活はいつ終わるかわからない」。井戸川前町長は「『美味しんぼ』で描かれたことは、体験したこと、いつも話している事実の一部だ」として、避難の現実を訴えた。双葉町は、全域が避難指示区域で、しかも大部分が帰還困難区域である。「政府は、被害者、弱者にしわ寄せしている。250キロ圏内は、避難者を受け入れるのではなく、避難してください」と呼びかけた。「電事連(電気事業連合会)を信じてはいけない。電力会社は、三者協定があっても、本当の情報を出しません」と、電力会社を批判した。
荒木田岳・福島大学准教授も、「水俣市民は、受け入れないで逃げてください」と呼びかけた。福島市は、福島第一原発から約60キロ離れているが、チェルノブイリでの「義務的避難区域」の70倍の放射線量が計測された。「家族を新潟に避難させ、今も離れた生活のまま。ものすごい数の『私』と同じ人がいる。私たちが経験したことから再稼働に行きつくはずがない」と訴えた。
緊急集会では、地元の西田弘志水俣市長が「安全神話が崩れた。再稼働には慎重な態度をとってほしい」と来賓挨拶し、再稼働について万全な避難計画ができてからの判断を求めた。吉岡斉・原子力市民委員会座長(九州大教授)、満田夏花・国際環境NGO FoE Japan理事、上原公子・脱原発をめざす首長会議事務局長(元東京都国立市長)、佐藤和雄・同事務局次長(元東京都小金井市長)らが報告した。
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