松山英樹選手が米ゴルフツアーを初制覇した話題はゴルファーの間で大いに盛り上がりました。日本人選手としては青木功、丸山茂樹、今田竜二についで4人目。22歳という年齢は日本人史上最年少という快挙です。日本ゴルフ界の悲願でもある日本人のメジャー制覇へ大きく期待が膨らみます。
それにしてもなんという精神力の持ち主なのでしょう。ビッグネームがひしめく最終日のバックナインでダブルボギーを叩いてもすぐにバーディーを奪い返し、ドライバーが折れるという想定外のハプニングにも3Wで対応、ギャラリーにボールが当たっても平然と優勝が懸かったしびれるパットをカップに沈めるのですから。
松山選手がアメリカツアーで優勝できた理由の一つはドライバーの飛距離です。
最近のアメリカツアーには才能あふれる選手たちが次々に登場しています。特に目立つのが他のスポーツでも一流になれたであろうアスリートタイプの選手たち。体格に恵まれ筋力のある彼らは軽々と300ヤードを超えていくショットを放っていきます。それにともない500ヤードのパー4なども普通に設定されるようになりました。
プロゴルフツアーもショービジネスですからドライバーでガンガン飛ばしていく選手やその映像はツアーにとって大事なコンテンツです。この流れは今後も続いていくと思われます。
日本では飛ばしにこだわっていた石川遼選手も米ツアーでは飛距離以外のところで自分の強みを出そうと模索しているように感じます。
一方の松山選手は体格にも恵まれ飛距離で欧米の選手たちに引けを取りません。優勝したこの大会のスタッツをみるとドライバーの平均距離は293.5ヤードで39位。十分戦える飛距離です。
ゴルフにおいて「飛ばさなければ」という思いほどスイングを崩すものはありません。普段、フロントティでプレーしていてバックティになったとたんにメロメロになったり、同伴者に飛ばし屋さんがいたので力んでしまったという経験はだれにでもあるでしょう。松山選手の飛距離があればコースの長さや同伴者のショットにストレスを感じることはなくプレーできると思います。
2つ目の要素はショットの正確さです。この大会期間中、アプローチショット(パー4のセカンドショットとパー5のサードショット)でつけたピンまでの平均距離は25フィート(約7メートル半)。これは出場者のなかで1位のスタッツです。
松山選手のスイングは軸が全くブレません。バックスイングからトップにかけて下半身をがっちり固定して上半身だけをしっかりと捩じっていきます。そしてぎりぎりまで捩じったら一気に戻す。タオルをギュウっと捩じって手を放すと元に戻ろうとしますが、あの動きに似ています。自分の体を一本の太いゴムとイメージして上のほうから捩じっていき、一気に解放する。捩じれたものを戻す作用を利用して打つわけですから余計な動きも少なくなります。
僕はアメリカの大学で4年間ゴルフ部に在籍していましたが、その時から欧米系の選手のスイングと日本人選手のスイングは何かが違うように感じていました。日本人選手のほうが腕や足を強調して使い、一方で欧米の選手たちは体幹の動きに重点を置きます。ウェイトシフトという言葉の意味にしても日本人は体重移動と解釈しますが、欧米では重心の移動と理解されています。たとえばレッスンで生徒さんに体重移動をしてくださいと伝えると、左右に体重を大きく動かそうとし、スウェーする状態になります。ところが重心を移動させてくださいと伝えると、まず自分の重心がどこにあるかを感じようとします。また重心というのはいつも両足の内側にあるので移動させてもスウェーになることもありません。
ここ数年世界で目覚ましい活躍をしている韓国の選手たちは欧米型のスイングをしています。そして松山選手のスイングも軸がぶれずに体幹の動きを意識した究極の欧米型のスイングと言えます。しかもアメリカの解説者たちも高く評価しています。
ゴルフのスイング理論は時代とともに変化しています。最新のテクノロジーを駆使した用具の開発もその要因のひとつです。
松山選手のスイングはこれから日本の若いゴルファーたちが目標とするスイングになると思います。僕ら指導者たちにも刺激を与えてくれています。
3つ目の要素はパッティングです。大会のホストであるジャック・二クラウスも「スムーズで実にいい」と絶賛していたように松山選手は素晴らしいパッティングストロークの持ち主です。
ただ、通常のパッティングストロークとは少し違います。一般的にパッティングは胸の中心や首の後ろ側に仮想の支点をつくり、そこを中心に振り子のように両腕とクラブを動かします。しかし松山選手の場合、振り子の支点はお腹の中心に設定しています。そのために前傾角度の深いアドレスになっていますよね。
この打ち方はパットが入りすぎるという理由で禁止になったベリーパターの打ち方と似ています。ベリーバターはシャフトが通常のものより長い中尺パターのことで、ベリーとはおへその意味。おへそにパターのグリップエンドをつけて支点を作りストロークします。仮想の支点よりも実際に支点があったほうがストロークは安定するのです。
松山選手は通常のパターを使用しているのでグリップエンドをお腹につけることはできません。しかしまるで目に見えないグリップがお腹の中心までくっついているかのように支点が動きません。
また、これは僕の推測ですが、松山選手はお腹の中心という意識ではなく、重心の中心に仮想の支点を作っているのではないかと思います。場所は同じでも重心の中心という意識のほうがストローク中の体のブレが少なくなるのです。
これまでの日本人選手は小技を武器に米ツアーで優勝を飾ってきました。しかし松山選手は飛距離、スイングそしてパッティングと総合力でアメリカツアーのトップレベルに達しています。コンパクトで性能の高さが評価された日本車もいまや海外のラグジュアリーな高級車と肩を並べるモデルが世界で支持されています。優勝を決めた瞬間の松山選手の笑顔と左胸についた日本車メーカーのロゴマークがとても印象に残りました。
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<PROFILE>
信川 竜太 (のぶかわ りゅうた)
1971年3月27日生まれ。(株)スリーバーズ代表取締役。スポーツキャスター、DJ、MC、リポーターとしてスポーツを中心にテレビ、ラジオなどで活躍中。その一方で、ゴルフコーチとしても活動している。信川氏がゴルフの道を志したのは福大大濠高校1学年時。卒業後、フロリダ州ブロワードジュニアカレッジに入学(のち、フロリダ・リン ユニバーシティーに編入)。在学中、トーナメントでタイガー・ウッズの上位に入る結果を残した。2006年1月に(社)日本プロゴルフ協会 PGAゴルフティーチングプロの資格を取得。10年10月、福岡市東区多の津にスポーツ塾を開講した。
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