国営諫早湾干拓事業(長崎県)の潮受け堤防排水門の開門をめぐって、長崎地裁(松葉佐隆之裁判長)は4日、開門差し止めを命じた長崎地裁仮処分決定(2013年11月)に従わずに国が開門したら制裁金1日49万円の支払いを命じる間接強制の決定をした。仮処分決定で開門差し止めが認められた長崎県の営農者らが2,500億円の支払いを申し立てていたもの。仮処分決定は、開門による被害を防止する事前対策が行なわれていないとして、開門差し止めを命じていた。
<開門してもしなくても年間約1億8,000万円>
一方、確定した福岡高裁判決(「よみがえれ!有明訴訟」開門請求本訴。1審・佐賀地裁)は、同事業による漁業被害を認定し、13年12月20日までの猶予を与えて開門を命じていたが、国は開門しなかった。債権者の漁業者らが確定判決にもとづいて申し立てた間接強制は、すでに佐賀地裁で認められ、6月11日までに開門しない場合、国は漁業者49人に1日につき1人1万円(1日合計49万円)を支払うよう命じられている。
国は開門してもしなくても制裁金を1日49万円ずつ支払う義務を負った。現状のままなら、いずれかの法的状態が永遠と続くので、年間約1億8,000万円にのぼる国民の税金が延々と支出されることになる。安倍晋三首相、林芳正農水相、農水官僚は、他人のお金だと思っているのか。この異常事態を1日も早く打開すべきだ。
長崎地裁の決定は、「佐賀地裁の間接強制決定などから、国が開門する恐れがある」とした。1日49万円とした根拠について、(1)国が、現状では本件開放禁止義務を履行しており、本件対策工事をするまでは開門をしないとしており、本件対策工事が実施されていない、(2)佐賀地裁決定が漁業者らに1日合計49万円の支払を命じていることなどを挙げている。
長崎地裁の決定と佐賀地裁の間接強制決定では、債権者の人数も、侵害される権利内容も違うのに、制裁金は1日49万円と同額になった。開門するかしないかの二者択一にもかかわらず、長崎地裁の決定は、「国は好きな方を勝手に選べ」というようなもので、法的に紛争を解決する意図がまったく感じられない。
決定に対しては、申し立てていた営農者も、開門を求めている漁業者らも大きな不満、反発を抱いた。
<国は裁判所での話し合いのテーブルに着け>
当事者である国は4日、漁業者らと交渉の場で「長崎地裁決定を受けて、佐賀地裁の間接強制、長崎地裁の間接強制に挟まれて国はますます難しい状況になった」と表明した。
「難しい状況」になったのは、開門義務を負った福岡高裁判決から3年間、国が開門するための対策を怠ってきたツケである。
もつれた糸をほどくには、開門賛成、反対の両当事者、国が話し合いのテーブルを持つべきだ。開門を求めた訴訟は、複数起こされており、その1つが福岡高裁で審理中だ。原敏雄裁判長が、話し合いの場として進行協議を提案し、国と開門反対派に話し合いのテーブルに着くように勧奨している。裁判所は、反対派が話し合いに応じない場合でも、国には進行協議に応じるよう促している。国は、開門派と裁判外で意見交換会を繰り返し開いており、裁判所で話し合う不都合はないはずだ。
確定判決が開門を命じたのは、漁業被害という違法状態を取り除くためだ。漁業被害を起こしているという国の違法行為は、日々続いている。国には、違法状態を解消する義務がある。
<焦点は、対策工事に絞られた>
国は「申し付けられたのは、主文だけだ」とうそぶいているが、「最高裁判決は、集団的自衛権行使を容認した」という珍解釈は、主文ではない。ご都合主義はやめて、裁判所の示した法的判断全体を真摯に受け止めるべきだ。
13年11月の長崎地裁仮処分決定が禁じたのも「対策工事をしないままの開門」であり、対策工事をして開門による被害が防げるようになれば、開門を差し止めた仮処分の効力はなくなる。仮処分決定は、対策工事を禁じているわけではない。
営農者らも「開門によって被害が起きると困る」から開門差し止めを求めたはずである。
漁業者側も、「対策工事をしないままでの開門を求めない」と明言し、「営農者らが心配する被害をどうぞおっしゃってください。いっしょに国に対策工事をとらせましょう」とまで提案している。
焦点は、絞られてきた。
「よみがえれ!有明訴訟」弁護団長の馬奈木昭雄弁護士は4日、農水省に強く迫った。「『義務の衝突』を回避するためには、対策工事をやりなさい」。
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