NET-IBでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事から一部を抜粋して紹介する。今回は、御用メディアが跋扈(ばっこ)する日本のメディアのなかで異彩を放つ、良質なメディアを支援することの重要性を説いた、6月8日付の記事を紹介する。
民主主義を健全に機能させるためには、マスメディアの情報空間の除染をしなければならない。日本のマスメディア情報空間は御用メディアによって深刻に汚染されてしまっている。主権者に真実の情報が届けられなければ、主権者が正しい判断を下すことは極めて難しい。
日本の情報空間のなかで、例外的に先進的であるのが沖縄県である。沖縄には、琉球新報と沖縄タイムズという、二つの地方紙がある。この地方紙がいずれも、権力迎合にならず、社会の木鐸(ぼくたく)としての役割を果たしている。
【木鐸】とは、(1)舌(振子)を木で作った金属製の鈴。昔中国で法令などを人民に触れて歩くときにならしたもの。金口木舌。(2)(転じて)世人に警告を発し教え導く人。「社会の―」「世の―として立たん/復活(魯庵)」
琉球新報は「金口木舌(きんこうぼくぜつ)」と題するコラムを有する。社として、社会の木鐸として力を注ぐ意思を有しているのであろう。
沖縄の人々は、権力が発する情報以外に、権力の主張を客観的に論評する、批評精神を有する報道機関が発する情報に常に触れている。このため、権力の情報だけに誘導されてしまう傾向が弱い。ものごとには多様な見解が存在することを常に意識し、多様な主張が存在することを認識しつつ、自分自身の考え方を形成する知的訓練が日常的に行なわれているのだろう。
NHK放送受信料の都道府県別支払率で、全国最低値を記録しているのが沖縄県である。沖縄県の支払率は50%を割り込んでいる。「みなさまのNHK」と言いながら、「政治権力のNHK」、「あべさまのNHK」に成り下がっているNHKの放送受信料を強制的に支払わされるのは不当であると考える市民が多いのだと思われる。
NHK放送をスクランブル化することは可能になっているのだから、NHK放送をスクランブル化して、受信契約を任意制に移行させるべきだ。この正当な主張を実現させるためには、沖縄県民の行動を日本全体の意識ある市民が見習うべきだろう。
前置きが長くなった。
16社体制と呼ばれている大手メディアのなかでは、北海道新聞や中日新聞(=東京新聞)だけが、例外的に、権力迎合に陥らずに、政治権力に対しても、批評精神を失わない報道を展開している。
それ以外のメディアで、大健闘しているのが「日刊ゲンダイ」である。大都市圏で働く企業人が夕刻に講読するケースが多いが、ウェブサイトで講読することもできるから、ものごとの正しい判断、御用メディアが伝えない真実の情報を得たいと思う人は、ぜひウェブ上で講読することをお勧めしたい。
日刊ゲンダイは、安倍政権が推進する「成長戦略」の名を借りて、政商として蠢(うごめ)き、血税に吸い付いて私利を追求する人物が跋扈している現状を正確に伝えてくれる。この点については、6月6日付ブログ・メルマガ記事を参照賜りたい。
この「日刊ゲンダイ」が6月6日付記事「原因不明...千葉の牛乳問題でささやかれる「牛白血病」との関係」で重要事実を伝えている。
「千葉県内の小中学校で5月、給食の牛乳を飲んだ児童や生徒1,700人余りが腹痛や下痢などを訴えた問題。牛乳はいずれも古谷乳業(千葉市)が同県内の工場で製造したもので、県の調査では農薬などの不審物は検出されていない。
そんな中、ある「原因」がささやかれ始めた。牛の白血病である。
(中略)
86年のチェルノブイリ原発事故の被災者を支援している「NPO法人チェルノブイリへのかけはし」の報告によると、〈チェルノブイリではたくさんの家畜たちも白血病になった〉とある。
福島原発事故との因果関係は不明だが、不気味な話だ。」
記事の記述態度は慎重である。「福島原発事故との因果関係は不明」であることを明記している。因果関係が確かめられてはいない現状で、憶測で断定することを慎重に避けている。
しかし、2011年3月11日の、あの原発事故以来、放射能汚染による生物への影響が警戒される、多くの重大なエビデンス=証拠が確認されつつある。
福島県に在住する子どもたちに発見されている甲状腺異常も極めて重大である。甲状腺がんの発生確率は、これまでの通説の200倍以上になっているのである。県や国は、「検査を強化しているからがんの発見が増えている」と強弁するが、この主張にも確かな裏付けがない。
福島原発事故による放射能汚染の影響を軽視するべきでない。
安倍政権の姿勢は不誠実であると言わざるを得ない。原発再稼働を推進する姿勢は、国民に対する背信行為である。主権者国民が立ち上がり、安倍政権の不誠実、不当性を糾弾してゆくべきだろう。
千葉県で生産された牛乳による健康被害の問題について、テレビメディアは十分な報道を展開していない。日刊ゲンダイの報道姿勢は、御用メディアが跋扈(ばっこ)する日本のメディアのなかでは、異彩を放つものである。こうした良質メディアを支援する有効な方法は、有料購読することである。市民が適正な購読料金を支払うことにより、こうした良質メディアの財政基盤が確保される。日本のマスメディア情報空間が深刻に汚染されている現状の下で、この浄化、除染を図る有効な手段が有料購読の実行である。
※続きは8日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」第882号「原発規制基準を福井地裁判決に差し替えるべき」で。
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