弊社の調べによると上村建設は250億円、北洋建設は50億円、松本組は30億円という価値評価をだした。さらに進興設備工業の企業価値は14億円と算定したのである。
<中興の祖=舩津政隆氏の役割>
進興設備工業(株)は、創業者的野傳氏によって1951年1月に創業された。法人改組したのが59年3月だ。業績は一進一退であった。社員の要望を聞き入れて、創業者の的野氏とは赤の他人である舩津政隆氏が2代目社長に就任したのが84年4月である。この時点で、一族が経営継承をすることにこだわらない風土が確立した。舩津氏は15年間、代表取締役社長として快走して、卓越した会社に仕上げた。
I・B1941号で『会社の企業価値』についての特集を組んだ。金銭勘定で「上村建設は250億円か」「北洋建設は43億円か」「松本組は29億円か」と論じた(もちろん、判明したデータからのグループ企業の金銭勘定価値を類推したので、実態は変動がある)。ただ、進興設備工業の場合はシンプルである。2014年2月期の純資産は10億5,000万円。不動産の含みは、手堅く見て1億5,000万円(固定資産土地の簿価9,289万円)。有価証券の含み2億円(この簿価4億円)。合わせると、企業価値14億円になる。
同社の前期売上高が14億4,800万円であるから、年商売上に迫る企業価値であるのだ(純資産率=自己資本率70%)。建設業に携わる空調・設備業で、年商に匹敵する企業価値として換算されることは特筆すべきことである。ゼネコンからの受注主体で、これだけの内部留保ができるのは、至難の業と評価できる。この業界水準をはるかに卓越させた企業内容に仕上げたのが、2代目社長・舩津氏であったのだ。
<企業価値高い故に贅沢な悩み>
舩津氏自身も、次期後継者を真剣に探していた時期があった。筆者が会社を訪問するたびに、「誰かスカウトしていただきたい」と頼まれた。頼まれた以上、こちらも真剣に探し回ったが、単なる営業部長、積算部長のスカウトではない。進興設備工業の経営を引き継ぐ人材である。大役に対して、こちらも力不足。「ギブアップです。期待に応えられません」と頭を下げた。舩津氏も身内で該当者を育成しようとしたが、成功しなかった。こんな超優良企業を継承することになるのには、誰もが尻込みするのは当然である。
さらに大変なのは、企業価値が超越する相続税・贈与税に苦しめられるということだ。もともとの株主構成は、創業者・的野傳氏の一族および3代目社長になる的野敢氏、舩津氏などで占められていた。単純に言えば、14年2月期の株主資本10億5,000万円、資本金5,000万円であれば21倍の評価が付く。仮に1,000万円の株主には2億1,000万円の株の値がつく。これを身内に引き渡す際には2億1,000万円に対する贈与税がかかるようになる。贅沢な悩みと言えばその通りであるが、無策でいるわけにはいかない。
当時の舩津社長、財テクに精通している的野敢氏2人で必死に知恵をめぐらせた。その頃、事業継承をめぐる税法が是正されていた(中小企業の事業継承を容易にするためにオーナー一族以外に株を譲渡する場合には譲渡税を取らない取り決めがなされていた)。そこでまず金庫株(自己株式)を増やした。現在、3万3,760株(発行株数の33.8%)である。さらに社員持ち株を増加させた(株主構成の資料を参照されたし)。社員他個人持ち株の占める株数が54%に達している。こうなると、誰がオーナーか統治者か、不鮮明になるのだ。持ち株で言えば、『進興設備工業の統治者は社員』となる。
2代目社長・舩津氏、3代目・的野氏とも、ユートピア的思想の持ち主ではない。激烈な中小企業の戦争に勝ち残ってきた非情な現実主義の経営者であったことは間違いないのだが―。皮肉なものだ。超優良企業に仕上げた故に、オーナー会社を捨てた。この2人の脳裏にある優先順位は、『いかにして企業を存続させるか』である。「資本金の21倍の値が付いた企業価値には自画自賛しても良いが、相続税・譲与税で会社経営に支障をきたすわけにはいかない」という共通した認識だ。結果、『会社の統治者は社員』という株主構成を選んだのである。けっして共産主義者的判断からの処置ではない。
<超優良故の自信みなぎる>
4代目の大野史朗社長は、己の役割を明確に披露する。「第1の使命は企業内容を一段と向上させることです。過去の3代の社長が営々と築いてきた企業基盤を毀損したら、腹切りものです。先輩たちに申し訳ない。第2は次の後継者を育て上げることです。もう次期社長は選定しています。もちろん、社内抜擢です。この使命達成のために、少なくとも5年間は全力投入します」。大野社長が全然、意気込むことなく淡々と語ることで、こちらは逆に圧倒される。
聞くところによると、5代目と目される人材は40歳前後であるとか。同社の財務内容・社風から勘案しても、不測の事態が生じない限り「20年間は事業継続可能」と判断が下される。受注業態も大きく舵取りを変えようとしている。「ゼネコン50%、改修工事直受け50%」という受注形態を、不動のものにしようとしているのだ。同社の強みは、決定したことを完遂することである。
<COMPANY INFORMATION>
進興設備工業(株)
代 表:大野 史朗
所在地:福岡市南区玉川町4-2
設 立:1959年3月
資本金:5,000万円
売上高:(14/2)14億4,802万円
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