台湾では主に「(台湾)国語」と「台湾語」の2種類の言語が話されている。「(台湾)国語」とはいわゆる「北京語(普通話)」のことで、中国国民党が台湾に流れ込み教育をした言葉だ。繁体字(台湾)と簡体字(大陸)の違いはあるものの、台湾でのテレビ放送はほとんどが「(台湾)国語」でなされており、台湾人と大陸人とのコミュニケーションもこの言語で行なわれる。
一方、「台湾語」は「閩南(ミンナン)語」とも呼ばれ、台湾や中国福建省で「台湾国語」が話される前から流通した言語で、発音は「台湾国語」とまるで違う。完全に発音も違うので、日本の「放言」の概念ともかけ離れている。第2次大戦後、教育が「台湾国語」で成されたため、「台湾語」の流通は減っていったが、いまなお、南部などで使われている。
台湾語が目立った形で使用されたのは、2000年の総統選挙の時。国民党、民進党、親民党の代表での三つ巴となった選挙戦、独立派・民進党の陳水扁候補は演説を「台湾語」で行なった。「台湾は独自の言語を持つ」という公式演説でのアピールは、「台湾は独立国家だ」ということも強烈に訴え、選挙は、陳水扁候補が激戦を制した。「台湾に興味がある」「台湾に旅行をしたい」と思う日本人が、時折、「台湾語」だけをかじって台湾に行ってしまうことがあるが、ほとんど「使えない」。台北の多くの若者は台湾語を話さないし、奇異な目で見られる。「北京語」を勉強し、台湾でも大陸でも使うというのが一般的だ。ある日本人カメラマンは、台湾に撮影旅行に行き、林森(リンセン)のスナックで覚えたての「台湾語」をひけらかしたところ、スナックの若い女性に妙な顔をされたそうだ。
多くの日本人や外国人は「北京語(台湾国語)」を勉強して台湾に在住する。そして、台湾人も日本人に対し「台湾国語」で迎える。しかし、時に次のようなことが起こる。ある台湾に住む日本人は「台湾人の複数の友人と『台湾国語』で話していた。しかし、突然、台湾人同士で『台湾語』を話しだした。急に私には言葉が分からなくなったが、中で『ジップン』という『日本』を意味する単語が出て来た。顔の表情を思い出すと、日本の悪口言っていたか、私をからかっていたのもしれない」というエピソードを紹介してくれた。対日本人だけではない。
大陸からの観光客・ビジネス客が多数流入するなかで、最近は「大陸人に聞かれたくない仲間うち」の話をする際、台湾人同士で台湾語を「暗号的に」使うことがある。日本人を前に、台湾人の会話が「北京語」から突然「台湾語」に変わる瞬間・・・それは、ひょっとしたらあなたに「聞かれたくない話」をしているのかもしれない。何事も、台湾を訪れる際に「知っておいて損はない」話だ。
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