国営諫早湾干拓事業(長崎県)をめぐって、国が漁業者らに対し1日あたり49万円の制裁金を支払う猶予期限の6月11日が迫り、同12日から毎日制裁金を支払うことがほぼ確実になった。
<福岡高裁も「開門不履行なら制裁金」>
確定判決(2010年12月、福岡高裁)が命じた潮受け堤防排水門の開門(開放)を国が履行しないため、同判決で勝訴した漁業者が申し立てた間接強制で裁判所が制裁金の支払いを命じている。
制裁金の支払いを命じた佐賀地裁判決を不服とした国の執行抗告を福岡高裁(一志泰滋裁判長)は6日、棄却する決定を出し、事実上、制裁金を命じた決定は確定する見通しになった。
一方、長崎地裁(松葉佐隆之裁判長)は開門差し止めを命じた長崎地裁仮処分決定(2013年11月)に従わずに国が開門した場合に制裁金1日49万円の支払いを命じている。
国は「2つの法的義務に挟まれて国はますます難しい状況になった」などとして、開門しない態度を示している。9日、有明海再生のための話し合いを長崎県などへ呼びかけた。長崎県は、開門に反対しており、話し合いにも否定的だ。
<制裁金で「有明海再生基金」 「官邸に踏み込む」と強制執行辞さず>
漁業者側は、支払われた制裁金を「有明海再生基金」として、有明海再生のための研究などにあてるとしている。「原資は税金なので、漁業者個人の懐に入ることは絶対にない。有明海再生のために有効に使う」としている。国が漁業者側代理人に制裁金を持参しなければ、国の財産を強制執行する予定で、「首相官邸に踏み込む」と明言している。
「漁業被害が起きているから開門しますと国が言えばいい。それで絡み合った糸がほどける」。佐賀県太良町の漁業者、大鋸武弘さん(44)は6日、福岡高裁前で訴えた。
高裁前には、「再び国を断罪」「開門で有明海再生を」の垂れ幕が並び、漁業者はガッツポーズをみせた。
馬奈木昭雄弁護団長は「被害を出さないように開門すること。この義務以外にどの義務があるのか。一日も早く、開門するため対策工事に着手せよ」と求めた。報告する声が一段と大きくなる。「義務の衝突は欺瞞、嘘だ。国は、国民の税金を無駄に払い続けるとおっっしゃっている。国民は政府の態度を絶対に許さない」。
<消えない開門義務 「大きな前進」>
確定判決を守らない債務者に対し、債権者が履行を促すために制裁金を科す間接強制を裁判所が認めないならば、裁判所が「確定判決を守らないでいい」とお墨付きを与えるようなものだ。そのような司法判断はあり得ないというのが常識だったが、漁業者側は負けた場合に備えて、あえて「司法の自殺」との垂れ幕を用意して、6日の決定に臨んだ。
「無駄で環境破壊の大型公共事業」の象徴となった諫早湾干拓事業をめぐって、行政にも司法にも異常な判断が繰り返されてきたからだ。
2000年のノリ大凶作の際には、ノリ第三者委員会が提言した短期、中期、長期の開門調査は、短期開門調査をしただけで、中期・長期の開門は見送られた。同事業の工事を差し止めた佐賀地裁の仮処分決定に対し、福岡高裁は2005年、諫早湾干拓事業と漁業被害の因果関係が定性的に認められるが定量的には明らかではないとして、差し止めを退けた。
「万が一」の備えは杞憂に終わった。漁業者・弁護団・支援者らは、高裁の決定を「大きな前進だ」と受け止め、「当たり前のことが当たり前に認められるうれしさ」をかみしめた。
福岡県柳川市のノリ漁民の北原敬二さん(61)はこう語る。「確定判決は消えることはないとはっきりし、元気が出た」
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