国は、福岡高裁の抗告棄却に対し、最高裁の判断を求める抗告許可を申し立てた。しかし、抗告許可は、高裁の決定が最高裁判例に違反するか法令解釈に重要な問題を含むと高裁自身が認めた場合に最高裁に上がる仕組みのため、高裁が抗告を許可する可能性は極めて低い。
　一方、長崎地裁（松葉佐隆之裁判長）は開門差し止めを命じた長崎地裁仮処分決定（2013年11月）に従わずに国が開門した場合に制裁金１日49万円の支払いを命じている。
　国がいう「２つの法的義務」というのは、開門を命じた福岡高裁の確定判決と、開門差し止めを命じた長崎地裁の仮処分決定の２つのことだ。

＜司法が国を断罪　「国の意思だけで開門できるのは明らか」＞
　高裁決定は、開門を命じた確定判決の拘束力について単純明快な判断を示した。

　「２つの義務」を理由にする国の言い分をすべて退けている。
　決定は「第三者の協力や同意を必要とせず、国の意思のみで開門を履行できるのは明らか」とした。
　また、国の「仮処分決定により、国の意思では排除できない障害がある」との主張に対し、「確定判決の債務の性質に関わらない事由だ」と退け、「間接強制の対象とすることを妨げる事由になるものではない」と一蹴した。
　国が「地元自治体や関係者の協力・同意がなく、対策工事ができない」として、「対策工事をしないまま開門すれば重大な被害が発生するので、開門を求めるのは権利の濫用または信義則違反だ」という主張に対しても、高裁決定は明確に排斥した。
　決定はこう述べている。「確定判決の結論を争い、対策工事の実施を条件として開門を命じるべきであると主張するに等しく、確定判決を実質的に変更するよう求めるものであって、蒸し返し以外のなにものでもない」。
　これは、国（行政府）が「申し付けられたのは主文のみ。主文にだけ従えばいい」と言って、ついには主文にも従わず、三権分立を蹂躙する態度への司法からの厳しい批判である。
　高裁決定は、国に対し、確定判決の拘束力から「権利濫用または信義則違反」を主張することは許されないと指弾したうえで、漁業者側の間接強制の申し立てを「まさに正当な権利行使」と明言した。福岡高裁が確定判決を守らせようとする断固たる意思が込められている。

＜対策工事せずとも開門――これが主文だ＞
　開門反対派は、農業用水の水源が失われることや、湛水被害が起きる恐れがあるとしている。開門派も、開門による被害を防ぐため対策工事をしたうえでの開門を求めている。
　しかし、司法判断は、開門派のような「優しい立場」をとっていない。裁判所の法的判断は、冷徹である。
　農水官僚は「申し付けられたのは主文だけだ」と言うが、確定判決の主文には、「対策工事をやってから開門せよ」とは一言も書かれていない。６日の高裁決定はこう述べている。「確定判決の内容は、排水門を開放することであって、対策工事の実施自体を内容とするものではないし、対策工事の実施を条件とするものでもない」。
　農水省の好きな「主文」に従えば、猶予期限の2013年12月を過ぎれば、対策工事をしたかどうかにかかわらず、開門を命じた拘束力から国は逃れられないということを裁判所が念押ししたものだ。

＜今起きている漁業被害を防止は急務＞
　林芳正農水相は「有明海再生を支援する」と他人事のように述べている。国は、開門派と開門反対派を仲裁する「善意の第三者」ではない。確定判決は、諫早湾干拓事業による漁業被害を認めて、漁業被害防止（漁業行使権侵害の妨害排除）のために開門を命じた。国の違法性を認定し、国が加害者であることが確定している。

　「国は2000年から有明海再生事業と言っているが、開門なしに有明海再生はあり得ない。農水省が有明海を半死半生にした。そのために漁民は経済的に追い詰められている」。佐賀県太良町のノリ漁民、大鋸武弘さん（44）は訴えている。「我々には、今日も明日も被害が起きている。国は『開門します』と宣言しろ」。

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