5月31日の「SAYONARA国立競技場」という華々しいイベントで長い歴史の幕を閉じた、国立霞ヶ丘競技場(東京都新宿区)。建て替えのため、7月から解体工事に着手する計画だったが、入札が不調に終わり、大幅に予定が遅れる見込みだ。
2020年東京オリンピック・パラリンピックのメーン会場として建て替えられる新国立競技場をめぐっては、景観を守ろうとする市民団体や建築家らによって、「改修が望ましい」として解体に対する反対運動が巻き起こっていた。
そんな最中、6月9日付で、日本スポーツ振興センター(JSC)が発注する解体工事(3月24日公告)の入札が不調になったことがわかった。応札業者の価格が予定価格を上回ったためで、最低価格を提示した業者と随意契約を結ぶため価格交渉を実施したが、資材費や人件費の高騰などが原因で折り合わなかったという。
工事区間は北工区と南工区に分かれ、工事規模は20億2,000万円以上だったとされる。
JSCは6月中にも改めて入札公告し、7~9月に開札する予定だが、当初想定されていた7月解体工事開始というスケジュールは大幅に狂った。
建て替え自体はおよそ3年前から計画されていたが、その間、工事費は全国的に上がっており、公共工事の入札不調が増えていた。
たとえば、13年7月に入札が行なわれた「武蔵野の森総合スポーツ施設」(東京都調布市)は、最初の入札で全業者が辞退。都は当初予定価格にメインアリーナで8%、サブアリーナで3%上乗せし、3カ月後の同年10月に再入札した。その結果、前者を竹中工務店JVが99億7,800万円、後者を大成建設JVが68億5,000万円でそれぞれ落札。
昨年はこうした事例が散見され、最近では今年2月、築地市場の移転先である豊洲新市場(東京都江東区)が、当初予定の1.6倍となる1,035億円で再入札されたことは記憶に新しい(参照:続く入札不調、公共工事の未来)。
つまり、こうした事態は何カ月も前から想定されていたのだ。それに何ら対策を打たなかったJSCのコントロール能力が疑われる。
さらに、5月28日に8万人を収容するための基本設計案を公表したときの総工費は解体費含めて1,692億円と示されていた。ただ、これは13年7月時点の試算で、しかも消費税5%で計算されている。3%増税しているから、50億円近く上乗せされるだろう。さらに消費税10%という話も出ており、そうなると当初より85億円近く増えることになる。
過去の入札不調の事例を見ると、再入札で総工費は最低でも1割は増えている。となると、新国立競技場は2,000億円を超えるような工事になる事態も想定しなければならない。
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