<価格設定のイニシアティブ>
「スマートフォン・タブレット端末の普及とともに」台頭するグローバル企業の筆頭が、米アマゾンだろう。社名通り「AtoZ」、要するに「何でも売っている」を自負する巨大プラットフォームが、出版業界から見れば、これまで再販制度で守られていた「本の定価」に風穴を開けようとしている。
5月9日、緑風出版、晩成書房、水声社の出版社3社が、アマゾンへの自社書籍の出荷停止に踏み切ったと記者会見で発表した。「アマゾンが展開する学生向け会員制度で実施しているポイント還元が、事実上の値引き販売に該当し、再販制度に抵触するが、是正要求が受け入れられなかった」ことが理由という。
実は、こうした問題は日本だけでなく、本場アメリカでも米大手出版社のアシェットがアマゾンと価格設定をめぐって対立している。数年前、アマゾンは電子書籍の標準価格を9.99ドルに設定した。出版社に対して可能なかぎり安い価格を厳しく要求し、交渉が難航すれば、その出版社の本の配送が数週間かかるような措置をとっている。
こうした流れが、日本にも影響をおよぼすだろう。アマゾンが目指すのは、既存の出版業界のビジネスモデルを覆し、価格設定のイニシアティブを握ることだ。
先の日本の3社も、そうされればビジネスモデルを根底から覆されるため、出荷停止という禁じ手を使ったと思われる。ただ、大手出版社との間には熱の差があるようだ。「大手出版社が動かない。誰かが声を上げなければ日本の出版文化は崩壊してしまう」というのが、会見での彼らの叫びだった。
こうしたなか、老舗の1社で大手3社と同等の売上規模を持つKADOKAWA(旧・角川文庫)が動いた。
KADOKAWAは2013年、連結子会社のアスキー・メディアワークス、エンターブレイン、角川学芸出版、角川プロダクション、角川マガジンズ、中経出版、富士見書房、メディアファクトリーと合併し、再出発。14年3月期連結決算は、売上高1,511億4,800万円(前期比6.5%減)、当期利益75億9,200万円(同+50.6%)と、規模では大手3社に食い込んでいる。
同社は今年5月、動画サービス「ニコニコ動画」を手がけるドワンゴと10月に経営統合すると発表。その背景には、電子書籍でグーグルやアップル、アマゾンなどが価格決定権を握るその対抗軸として、国内独自の販売プラットフォームをつくることがあるようだ。
電子書籍分野においては、市場が成長するからといってプラットフォームづくりを怠れば、その売上は海外企業にコントロールされる。さらには、電子書籍を皮切りに、紙媒体の価格破壊が起こるという皮肉な結果が待っている。本来なら大手3社が牽引すべき事項だろうが、今のところその気配はなさそうだ。
【特別取材班】
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