6月初旬、福岡市内でネットワークカメラの展示会が開催された。ネットワークカメラは簡単にいえば、カメラとコンピュータが一体化したもの。撮影されたライブ映像はIPネットワークを通じて直接送信される。それにより、ユーザーはネットワークインフラ経由で、近くからでも遠くからでも映像を見たり、保存したり、管理したりすることが可能になっている。会場で、業界の動向などを取材した。
もともと日本では、防犯カメラの設置場所は銀行、パチンコ店、コンビニに限られていたが、地下鉄サリン事件や附属池田小事件をきっかけに、その他の場所についても設置が急速に進んだ。分譲マンションでは、オートロックと防犯カメラはほとんど設置されるまでになっている。そして最近では食品工場などでも、異物混入事件や賞味期限の問題などが発生し、カメラを導入するケースは増えている。
<アナログからデジタルへ>
TV放送が完全デジタル化されたが、防犯・監視カメラは、アナログからデジタルへの過渡期にある。5年ほど前から、従来のアナログが減少し、デジタルが普及。とくにネットワークカメラでは、LANケーブルを通じて、データ量も増加、きれいな映像がインターネットを介して見られるようになった。アナログカメラでは、映像で人物は捉えるが、はっきりした人相まではわからず、自動車のナンバーもはっきりと読み取ることができなかった。これでは、犯罪や事件における証拠能力としては弱かった。最近では、アナログ映像の画像解析を行ない、車種やナンバーが特定されるようになったが、デジタルではその画像解析を用いることなく、鮮明に映し出すことができ、証拠能力が高まっている
<オリンピック開催が契機に>
日本人の防犯意識も変化しつつある。人口が多く、犯罪件数も多い東京のセキュリティ意識は他の都市よりも数段高く、2020年の東京オリンピック開催に向けて、さらにそのレベルは高まっていくと予想される。報道で防犯カメラの映像が登場する回数が増えていることも市場の拡大を後押ししている。
これまではセキュリティよりもプライバシーが優先されていたが、時代は変わりつつある。数年後には、顔認証が当たり前となり、セキュリティがプライバシーよりも優先されるかもしれない。
<監視カメラの新しい用途>
設置業者からアイデアを集約し、メーカーが製品開発に反映している。たとえば、幼稚園向けには、子どもの安全・安心を守ることが前提だが、そのほかに保護者が自宅から園の様子を確認できるシステムがある。自分の子どもがちゃんと友達と遊べているのか、確認したい保護者のリクエストに応えたものだ。また工場などでは、監視カメラからの映像を集約したモニタールームに客人を招き、歩いて移動することなく、工場見学できるところもある。セキュリティを超えた部分での需要が生まれている。
「防犯カメラ自身が利益を生むものではないので、予算があれば導入したいという反応が多い」と会場にいた専門業者はいう。しかし、市場拡大は間違いない。あるカメラメーカーでは、10年前と比べると、売上は約10倍に伸長しているという。東京など人口が集中する地区では、まだまだセキュリティとして伸び代があり、他地域では新サービスの導入としての需要が発生している。「地域ごとに販売戦略は異なる」という。
<大手も成長に期待>
パナソニックは家電のイメージが強いが、現在は防犯カメラセキュリティ部門が事業の柱になりつつある。これまではニッチな業界で中小企業が参入できる状態だったが、大手が参入を始め、競争は激しくなってきている。ソニーやキャノンでも同様の動きがみられ、各社とも業界の将来性を認めているようだ。
<常に求められる技術革新>
業務用製品として、需要は拡大傾向にある。メーカーの参入で市場が飽和すると必ず価格競争が起きる。「今はまだアナログからデジタルへの過渡期で、それほど多くのメーカーが参入しておらず、あわてるほどではないが、今後は各社の動きに注視していく必要はある」と、メーカーは語る。携帯電話と同様、5年から10年のサイクルで技術革新が起きるというが、他社の参入が多ければ、そのサイクルは短くなり、製品の寿命も短くなる。常に技術の革新が求められる。
【東城 洋平】
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