サッカーW杯が始まったにも関わらず、韓国では、依然として沈んだ空気が広がったままだと言う。従来であればW杯の際、ソウル市役所前の広場に真っ赤なTシャツを着た5万人以上の群衆が集まり、韓国戦をパブリックビューイングしていただろう。2002年の日韓大会では10万人を記録したという話もあるほどに、サッカーに対する情熱は深い。韓国チームは本大会にも出場しているが、やはり、セウォル号沈没事故の影響で、サッカーを応援する気運が盛り上がらないのだと言う。
「見る気分ではない」「騒ぎたくない」という声が多く、さらには「結果は、少しは気になるが、スマートフォンで得点経過が表示されるので、わざわざテレビをつけてまで見ない。夜遅くまで起きて生活のリズムを崩すほどに見たいわけではない」という意見も出てきている。地球の反対側のブラジルで行なわれているため、試合の時間帯が悪いのは日本人とも同様だが、「そこまでして見ない」という点では、日本とは若干トーンが違うようだ。
日本在住の韓国人事情通は「ホン・ミョンボ氏が代表監督に就任したことで注目は集めているが、年々、代表のチーム力が弱まっており、今大会は『ロシアとアルジェリアに連敗して早々に終戦を迎えるのではないか』という予想が大半を占めていた。初戦のロシア戦で引き分けたので少しだけ希望は出たが、国民の多くはそんなに期待していない」と話す。
従来、大規模なパブリックビューイングが行なわれるはずのソウル市役所前の広場には、セウォル号沈没事故の犠牲者の献花台が設けられている。サッカーファンは別の場所に移って観戦しているが、規模はそれほど大きくないと言う。それでも熱狂的なファンは、未明から朝にかけ観戦し、ヒートアップして盛り上がるため、追悼ムードの一般市民からひんしゅくを買い、ときには「お前ら、こんなときにサッカーなど見ている場合か!」と小競り合いになったりもしたという。
そうしたなかで、韓国人事情通が付け加える。「セウォル号沈没事故以降で、国を明るくするような話題が1つもなかった。もし、それがあるとするならばワールドカップ。準優勝か優勝でもしてくれれば、少しは国が明るくなるかもしれない・・・」。
【杉本 尚丈】
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