「アジアからの観光客に対応したい」と、九州7県と福岡市などは、政府から「九州アジア観光アイランド総合特区」の認定を受け、試験を簡素化した九州限定通訳案内士の育成を開始した。福岡県ではこのほど第1回の研修と口述試験を行なったのだが、これがなかなか「狭き門」だということがわかり、受験者たちから恨み節が聞かれた。
福岡県の研修会場では、2週間すべての研修を終えた中国語クラス約80人、韓国語クラス約40人が口述試験を受験し、中国語18人、韓国語2人が合格となった。しかしそのなかで、不合格となった日本人主婦は「2週間、時間を守って欠かさず出席した。授業内容も復習し、試験に臨んだ。それなのに不合格となった。試験の審査基準もわからない。時間を返してほしい」と取材に対して怒りをぶつけた。佐賀県や鹿児島県での合格者も発表されたが、合格率はかなり低い数字となっている。
ある旅行業関係者は「『狭き門』を設定しているにも関わらず、あえて研修期間中までにそれを公表しなかったのは、公開することで志願者数が下がり、メディアの注目を集めにくくなるのを恐れたからではないか。今回は県や九州観光推進機構が『行政はこれだけアジアからの観光誘致をやっていますよ』とPRするためでもある。『多くの人が合格できる』という雰囲気をつくることで、研修初日や実地研修ではマスコミからのインタビューを受けさせたかった」と分析する。
一次選考は書類審査だったが、中国語での基準となる「中国語検定2級、HSK5級以上」の基準を満たしていない多くの日本人も書類審査をパスしていた。
「中国語能力が口述試験で重要視されるのであれば、書類審査からちゃんと行なうべきだ。『合格させる気がないのに、メディア向けの人数合わせのために来させられていた』と批判を受けてもやむを得ない」と、ある旅行業界の関係者は指摘する。実際、某テレビ局のニュース番組の取材を受けたという参加者は「研修生の間には『2週間頑張れば報われる、それまで頑張ろう』という空気が流れていた。結果的に、こんな難関だとわかっていれば、取材など受けなかった。『研修を受けた』ということは知り合いの多くがテレビで知っていて、結果的に受からなかったわけだから、とんだ恥さらしだ」と激昂した。
別の研修参加者は「口述試験では、九州の観光地やガイドとして起こり得る状況について中国語での説明を求められたが、これらは研修中にほとんど習っていない。研修内容と口述試験がまったく違う」と怒りを露にした。
研修参加者は果たして、行政やマスコミに踊らされただけだったのだろうか。
【杉本 尚丈】
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