<紙媒体が生き残るにはブランド力も不可欠>
ガリヤは戸高氏ら幹部社員が去った後も約1年間、営業を続けている。この間、利益を出していた別会社を清算することができ、当面の運営資金を得ることができたようだ。また、その事で何とかスタッフを雇用することが出来、運営できていたようだ。
「私が去った後、裏表紙に記載されるクレジットから社員の名前は消えていた。新人スタッフには長澤社長に反論するような能力も経験もない。だから、何とかマネジメントできたのかもしれない」と元スタッフのM氏。全く皮肉な話である。
ただ、編集や制作のスキルや経験不足から、スポンサーにとって満足いくレベルではなかったのではないか。メディアとして明らかに機能していなかったということである。
10年ほど前は「消費者は子供の頃からネットに親しんできたわけではないので、温もりのある紙媒体が見直される」という意見もあった。
ところが、この間にスマートフォンという新たな端末が登場。消費者にとって生活に必要な情報はPCやスマートフォンで入手する手法が浸透した。特にガリヤがターゲットにしてきた20代から40代のOLやビジネスマン、経営者ほどその傾向は顕著になった。
「何でもネットで調べられる時代。若い消費者ほど、情報にお金を払わない。グルナビで飲食店が検索できるのに、何でガリヤを見なきゃいけないのか。だからこそ、紙媒体として他のサービスが必要になる。そんな発想が社長には少しもなかった」とM氏。
これはフリーペーパーのようなローカルメディアだけのことでない。大手出版社が発行するメジャーな雑誌では、より顕著に見られる。出版社はノベルティをつけたり、メーカーとコラボ商品を開発するなど、何とか生き残り策を模索している。
それでも、廃刊する雑誌は少なくなく、4月には若者向け雑誌「小悪魔ageha」などを出版するインフォレスト(旧英知出版)が事業を停止した。
「小悪魔ageha」は一時テレビで頻繁に取り上げられ、販売部数が30万部に伸びた2008年3月期の売上高は、約59億4,500万円にも達していた。ところが、ブームが去ると一気に凋落の一途を辿ってしまうのである。
一方、角川書店の「福岡ウォーカー」は、わずか発行部数4万程度にも関わらず、大手企業の広告出稿が途切れない。その差はいったい何か。
やはり出版社で脈々と受け継がれる「編集力」、そして企画内容や取材、ライティング、エディトリアルデザインなどで醸し出される「ブランド力」に他ならない。
雑誌にブランド力があるからこそ、営業部サイドも代理店も大手企業に対して出稿を勧めやすいのである。一律に紙媒体がじり貧になっているわけではない。成長過程、競合誌出現の時点で、長澤社長には「ガリヤのブランドを強化しなければ生き残れない」という危機意識が全くなかったのである。
(当記事は各関係者の証言をもとに作成しています)
(つづく)
【釼 英雄】
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