6月19日、とんでもないニュースが各紙上をにぎわした。大成建設の幹部社員が、下請け約十社に架空発注を強要。裏金として私的なマンション建設費用に充てた。住友不動産が2003年に発売した横浜市西区にある11階建てのマンション「パークスクエア三ツ沢公園」で、建物そのものを支える杭が固い地盤に未到達のまま竣工されたという。東京都港区青山の億ションでも欠陥が見つかり、販売中止となった。水道管などを設置するための孔が開いていなかったというお粗末な一件。モラルや技術以前の問題だ。
一方で、「高齢者が安心して住めるマンションのリフォーム」を真剣に考え、提案している一級建築士もいる。
前回、1981(昭和56)年に見直された建築基準法の耐震基準を満たしていないマンションが全国に106万戸(2013)あり、建て替えや改修工事の見込みのないまま放置されている現状を報告した。その最大の理由は、"住民の高齢化"だ。
拙著『団地が死んでいく』(平凡社新書)で、"孤独死が起きる原因"として、「建て替えられた団地」(都営戸山団地)、「建て替えを躊躇している団地」(UR多摩ニュータウン)、「建て替えを拒否している団地」(UR常盤平団地)を紹介した。建て替えられた都営戸山団地では、気心の知れた住民がバラバラにされ、孤独死を早めた。建て替えを拒否した常盤平団地では、住民の結束が、「より強い仲間意識」を生み、惨めな孤独死者数を減らした。
千葉県松戸市にある常盤平団地。何度もご登場いただいて恐縮なのだが、この団地の建て替えを拒否したことで、賃貸料が据え置かれ、近隣の建て替えられた(高額な賃貸料)UR賃貸住宅の高空き室率を傍目に、「常に満室」「順番待ち」を勝ち取ったのは、中沢卓実氏という男である。「日本の建築技術は世界最高。鉄筋コンクリートは100年持つ」「高齢者にプライバシーはない」と徹底して住民側の利益を守った。
さらに「見守り」を実施。団地内に「松戸市孤独死予防センター」と「いきいきサロン」を設置。NPO法人「孤独死ゼロ研究会」(理事長)を立ち上げ、全国各地で「孤独死回避(予防)」の公演を続ける化け物的カリスマである。
中沢氏の運動を「ソフト」の成功例とすれば、ハード(躯体のリノベーション)面から"優しい高齢者住宅""孤独死回避"を提言している建築士がいる。今津賀昭(かずあき)氏である。今津氏の徹底した現場主義に着目してみたい。
今津氏は建物と住民の老朽化に、「高齢者が理事会活動を忌避するため、管理組合の活動が停滞する」「修繕工事の実施回数が増えるたびに工事費が高額となり、そのため修繕工事の合意ができず、老朽化に拍車がかかる」「解体しようにも予想外の費用がかかる」といった問題を指摘する。
こうした「管理不全マンション」は、やがて誰も住まなくなる「幽霊マンション」として廃墟化していく。「負の遺産」は増え続け、街の景観にまで影響を与えてしまうことになる。
山岡純一郎氏の『マンション崩壊』(日経BP社)に、「群馬県を走る国道17号線は、別名『廃屋街道』と呼ばれ、パチンコ店やラブホテル、事業所、住宅などが手つかずのまま荒れ放題。桐生市街地には8階建て60戸の賃貸マンションが丸ごと廃屋状態で放置されている。(要旨、2006年当時)」とある。廃墟は街を死に体に追い込む。
今津氏は、「公営住宅の方が一般のマンションより耐震補強工事が進んでいる」と指摘する。公営住宅の場合は、議会で予算が承認されさえすれば、耐震補強工事は確実に実施される。専用部分(マンションでは「専有部分」)についても、エレベータを後付したり、床の段差を解消したり、手すりをつけたりするバリアフリー工事が推進されると語る。
マンションの場合は、耐震補強工事費が高額になり、修繕積立金からの拠出でできる金額を遥かに超えてしまい、結局、耐震強度が不足していると診断されても、耐震補強工事費用が捻出できないまま放置されてしまう。「投資しても資産価値に反映されることが少ない」という認識も無視できない。
さらに「賃貸住宅と分譲マンションとの違い」について、今津氏は「賃貸住宅に住むことを"ヤドカリ"、分譲マンションの区分所有者を"カタツムリ"」に例えた。賃貸住宅の住人は、「越したいときに越せる」のに対し、分譲マンションの区分所有者は、まるで「ひとつの殻に多数のカタツムリが運命共同体のように生息するため、引っ越しができにくい」という。価値観の違う住人の集合体だから、「殻(躯体)を補強すべき」と指摘されても、おいそれと耐震補強工事に取りかかれるわけではない。
こうして、老朽化したマンションに高齢者が住み続けることになる。
(つづく)
<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。
※記事へのご意見はこちら