<石油と電力の逆転現象>
まず、韓国のこのような現象が正当化されるためには、原油高によって他の国でもそのような現象が起こらなければならない。しかし、前回でも触れたように、OECD加盟国の電力需要では韓国のような現象は起こらなかった。それは、他の国では熱エネルギーの電力化や暖房エネルギーの電力化が起こらなかったことを意味する。韓国と一番似たような状況に置かれている日本でも、そのような需要の増加は起こらなかった。
電力は主に化石燃料を燃やして高価の発電設備を使って製造した高級エネルギーなので、同じ熱量を得るのに、石油やガスの2倍くらいのコストがかかる。服が生地より高いのと同じ理屈である。
ところが韓国では、電力で熱エネルギーを確保する方が、石油またはガスから得るよりも、もっと安くなる逆転現象が起こったわけである。韓国だけでこのような現象が起こった理由は、何だろうか。
その背景には、韓国政府はその間『石油またはガスは高く、電気料金は安く』という政策の下に、税制措置および電気料金政策を取ってきたことがある。政府の立場からすると、暖房または輸送など最終消費活動に多く使われている油類は、税金をかけても物価に対する負担、税金に対する抵抗が少なく、税収も容易に確保できるメリットがある。
これに比べて電力は、最終消費活動はもちろん、製造業やサービス業などの生産活動に広範囲にわたって使われており、料金を値上げした場合、物価に与える影響が大きく、政治的な負担が重いのだ。
そのため政府は、高い油類税は堅持しながらも、電気料金だけは低く抑えている。たとえば韓国の暖房用油類には、付加価値税とは別にエネルギー税が付加される。これに比べて、電力生産の70%以上を占めている原発と石炭発電の原料にはエネルギー税がゼロで、電気料金を安く抑えることに寄与している。
しかし、価格逆転の決定的な理由は、税制政策より原発優遇策に基づいた電気料金政策にある。石炭発電と違って原発は、免税の特典以外にも、非公式に行なわれている補助と政策上の支援を受けている。原発に対する事故保険料の優遇策、原発支援政策、研究開発費の補助などが良い事例である。政府のこのような補助と支援策によって、原発の発電コストは人為的に低く抑えられているのだ。
もう1つの事例を挙げてみる。隣国の日本の場合、原発の発電原価は韓国より高い。これは、原発の建設費用が地震などの影響で韓国より高くつく理由もあるが、事故保険料など、原発原価に入れる費用を韓国より現実に即したかたちで反映しているからだ。
しかし、福島原発事故の後、日本政府は原発の隠れた費用などをすべて考慮し、原価を再試算した結果、現在の原価より50%が上昇したとのことだ。そのことは、韓国の原発には明らかになっていない費用がたくさんあることを示唆している。
それだけではない。原発または石炭発電所は、冷却水と石炭の輸送などの関係で、大都市からは遠く離れた海岸に立地しているのがほとんどである。従って、発電された電力を需要地である大都市に伝送するためには、長距離の伝送網がどうしても必要になる。ご存知のように、電力を発電、送電する過程で、約50%くらいの熱損失が発生する。従って、電力をエネルギーして使うということは、効率の面では高くつくことになる。
また、伝送網を建設、運営するためには、住民の財産上の損失と生活上の不便をもたらすことになる。送電網が通ると、地価が値下がりするし、販売も難しくなるケースも発生する。当然、送電網の建設をめぐって、地域住民との葛藤が表面化する。ただ今までのところは、政府主導でそれを無理やり抑えながら、韓国の電気料金制度ができているのだ。
以上、韓国の安い電気料金の背景と電力需要の異常現象について見てみたが、この現象が是正されるどころか、ますます深化しているのが現状なのである。
(了)
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