国土交通省が進める「介護サービス付き賃貸住宅」は、「高齢者が安心して生活できる」ことをコンセプトとし、60万戸の創設を目論む。
しかし、「国交省の本音は、分譲マンションの区分所有者は、自分たちで考え、用意しなさいというメッセージが込められている」と今津氏は指摘する。こういう空気を察してか、分譲マンションでは、「自分たち(高齢者)で安心して住めるマンションを作るしかない」という機運が芽生えてきていると話す。
マンションの管理組合活動が活発なら、豊かなコミュニケーションも生まれる。高齢者には住みやすい環境が整うだろう。しかし、集合住宅は基本的に隣人との関係が希薄である。それをあえて望む住人も少なくない。そこに、「孤立化」が生まれ、「孤独死」の影が忍び寄る。
高齢者が安心して生活するには、隣人との関係を常に良好に保つ。つまり「見守り、見守られる」ということが重要な課題となる。「元気で生活しているな」という雰囲気感を、隣人にそれとなく伝える。
「それは住んでいる空間の在り方にも深く関係する」と今津氏は言う。ハード(居住空間)がさりげないソフト(見守り)を誘う。つまり、「見守られやすい間取りにリフォームする」こと。今津氏は「高齢型プラン」と称するリフォームをあえて提案する。「安全改良」(車椅子使用含む)として、室内のバリアフリー化(手すり、傾斜路、幅を広げる)する一方で、大胆な「高齢型プラン」を提唱する。
分譲マンションの多くは、子育て世代をターゲットにした3LDK(3寝室型のプロトタイプ・資料参照)が主流を占めてきた。共用廊下側に2つの個室、その真ん中に玄関。玄関から通じる廊下の左手にもう1つの個室、その先にLDKとベランダ。廊下の右手は「水回りゾーン」と二分された典型的な間取りである。
左手にある2つの個室の間仕切りを取り払い、広い玄関、幅広の廊下を設ける。間仕切りを取り払った空間に、ベッド(夫婦の場合は2つ)を(間隔を開ける。簡易的に家具などで仕切ってもいい)置く。これによって、互いに気配が感じられる程度の「夫婦別寝」が可能になる。これは、国交省が推し進めている「サービス付き高齢者向け賃貸住宅」に限りなく近い。玄関を入って右手にあった「子ども部屋」は、開放的な収納部分として残される。水回り部分にある浴室や洗面所などもサイズを拡大することが容易になり、使い勝手が飛躍的に向上する。
このように「高齢型プラン」に改良する別のメリットは、廊下からバルコニーまで一連してつながる空間を確保したことで、解放感と心地良い通風をもたらす。さらに、廊下を通る住人にも室内にいる人の気配(異変)を感じさせ、孤独死などの予防にも効果があると今津氏は断言する。ただ、管理組合からは、「壁は共用部分だからいじるな」と改良許可が下りにくいという問題も残る。
しかし、「超高齢化時代には、老朽化したマンションを高齢者仕様に変更していくことで、逆に夫婦にとっての資産価値が上がる」と今津氏は言う。
残念ながら、「高齢型プラン」は日の目を見ないまま今日に至っている。続きはコチラまでアクセスしてほしい。そこには超高齢化時代を見据えた素晴らしいプランがある。
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<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。
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