日本では、世代で愛好する曲のジャンルが様々で、紅白歌合戦でも「誰?この歌手」と支持層がくっきり分かれ、共通して人気を集めるシンガーは少ない。しかし、中国では民謡や歌謡曲で年代問わず、幅広い層から支持を受けている音楽が多い。
なかでも爆発的にヒットしたのは、2009年にリリースされた「最炫民族风」(ツゥイシュエンミンツゥーフォン)だ。軽やかなアップテンポのリズムで、人間愛を自然になぞらえた誰でも親しめる「無難」な歌詞内容。
歌い出しは「苍茫的天涯是我的爱、绵绵的青山脚下花正开、什么样的节奏是最呀最摇摆、什么样的歌声才是最开怀」で「青々とした空の向こうに私の愛がある。果てしなく続く山の麓に花が咲いている。どんなリズムで身体を動かす?どんな歌声でエンジョイする?」という、中国の広い自然に軽やかなリズムでのダンスをイメージさせるスタート。男女2人のデュオ・凤凰传奇(フォンファンチュアンチー)が歌い、彼らの歌唱にはダンスは殆どないが、大陸中で曲に合わせ様々な踊りのアレンジが創作され、学校や幼稚園では児童や園児が踊る。湖畔や公園では「高齢者向け青空ダンス教室」の曲の題材としても使われている。
後半には、中国人の民族意識を高揚させるような歌詞も含まれる。日本では「国」「民族」などのテーマが詞に盛り込まれた歌はほとんどないが、中国では少なからず見られ、リズムのウケがいいと「ヒット曲」になることもある。
李春波氏の「呼儿嘿哟」(フーアルヘイヨー)もその一つで、歌詞では「毛主席教导我们说、知识青年到农村去、毛主席还教导我们说、接受贫下中农的再教育」と歌いだす。意味は「毛(沢東)主席は私達に指導してくださった。知識層の青年は農村へ行って、貧しい農家の人々を教育しなさい・・・」と教育色丸出しなのだが、リズミカルな旋律に乗り、中国全土で大ヒットした。若年層も「歌詞に政治色、教育色がある」といって毛嫌いすることも少ない。むしろ、様々な年代が一緒になって楽しむこのような曲はかなり多い。
「最炫民族风」は、中国人たちのカラオケでも「雰囲気作り」のタイミングで使われる。もっとも盛り上がるのはサビの部分で、「你是我天边最美的云彩、让我用心把你留下来」と歌ったあとに、「留下来(リュウシャアライ)!」と合いの手を入れる。「留下来」という掛け声の呼吸が良いと、場はどんどん盛り上がっていく。
【杉本 尚丈】
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・「最炫民族风」YouTube
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