<日本人はほとんど知らない>
日本のマスコミではほとんど報道されなかったが、中国では2010年7月1日に国防動員法が制定された。同法は、1997年3月に施行された国防法を補完するものである。中国が有事の際に「全国民が祖国を防衛し侵略に抵抗する」ため、金融機関、陸・海・空の交通輸送手段、港湾施設、報道やインターネット、郵便、建設、水利、民生用核関連施設、医療、食糧、貿易など、あらゆる分野を統制下に置き、これら物的・人的資源を徴用できるとしている。
実際には、すでに国防法を補完する形で国防交通条例、民用船舶動員法、交通動員法などの条例や法律が作られている。たとえば、民用船舶の動員で言えば、中国軍は90年に瀋陽軍区で、初めて旅客船・貨物船を使用した海上輸送訓練を行なっている。
中国は82年に英国がアルゼンチンとのフォークランド紛争で商船などを動員し、兵員の輸送と上陸作戦に活用したことに早くから着目し、民用船舶の動員を軽視できない第2の海軍と位置づけてきた。そのため民用船舶動員法の制定後は、1年のなかで1カ月間は、民用船舶を動員・徴用し、訓練・演習を実施している。
中国の軍事力を評価する場合、民間資産(民用船舶等の輸送力)も加味して判断する必要性があるのである(『海国防衛ジャーナル』2011年1月18日号)。
<日本人が人質に?>
一方、「有事」の規定が曖昧である国防動員法について、国防動員委員会総合弁公室主任・白自興少将(当時)は、国防動員法が発令された場合、「日本を含めた外資や合弁会社も法律の適用対象になる」と明言し、国防動員法の条項にある「民間企業には、戦略物資の準備と徴用、軍関連物資の研究と生産に対する義務と責任がある」に該当するとしている。
国防動員法には「国防の義務を履行せず、また拒否する者は、罰金または、刑事責任に問われる」とう条項がある。この条項も日本を含めた外資企業に適用されるのだろうか。適用されれば、もし中国が日本に対する攻撃を仕掛け、国防動員法が発令された場合、中国に協力する義務が生じることになる。日本企業は、中国に人質にされたも同然となる。
(つづく)
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<プロフィール>
濱口 和久 (はまぐち かずひさ)
昭和43年熊本県菊池市生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒業。陸上自衛隊、舛添政治経済研究所、民主党本部幹事長室副部長、栃木市首席政策監などを経て、国際地政学研究所研究員、日本政策研究センター研究員、日本文化チャンネル桜「防人の道 今日の自衛隊」キャスター、拓殖大学客員教授を務める。平成16年3月に竹島に本籍を移す。現在は、日本防災士機構認証研修機関の(株)防災士研修センター常務取締役。著書に、『思城居(おもしろい)』(東京コラボ)、『祖国を誇りに思う心』(ハーベスト出版)、「だれが日本の領土を守るのか?」(たちばな出版)。11月25日には、夕刊フジに連載中の企画をまとめた『探訪 日本の名城 上-戦国武将と出会う旅』(青林堂)を発売。公式HPはコチラ。
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