<最高顧問・江口克彦氏が離党>
「今日、やるんですか?」
通常国会最後の参院本会議が間もなく始まろうという時、大手メディアのみんなの党の番記者が江口克彦氏に声をかけた。渡辺喜美氏が代表時代からその側近と知られ、「代表」とあだ名を付けられたことがある記者だ。
怪訝な顔の江口氏は、ほとんど何も答えなかった。本会議が終わったのは10時を過ぎていたが、番記者たちが本会議場の前で江口氏を待ち構えていた。江口氏は別の出口から抜け出し、幹事長の水野賢一氏の事務所に急いだ。この日のうちに離党届を出し、記者会見しなくてはいけない。
「大変お世話になりました」。
江口氏から差し出された離党届を、水野氏はただ見つめるばかりで言葉が出なかった。
「なんとか慰留しなくては......」。
それから約1時間半、水野氏は江口氏と話しあった。しかし江口氏の決意は固かった。
みんなの党の前身の「国民の夜明け」の発起人のひとりであり、みんなの党の最高顧問である江口氏が離党すれば、党にとって決定的なダメージになる。浅尾慶一郎代表ら執行部全員はその動きを察知できなかった。ただ渡辺氏だけが、うすうす感じていたようだ。
「来週の月曜日夜、渡辺前代表とお食事はいかがでしょうか」。その日のお昼、渡辺氏に近い党職員から江口氏に連絡があった。「いえ、その必要はないでしょう」。前回、渡辺氏と話をしたのは3月31日のことだった。この時、江口氏は電話で渡辺氏に党代表辞任を迫っている。渡辺氏は拒否したが、1週間後の翌月7日にみんなの党代表の辞任を表明する。
以来、渡辺氏は永田町から姿を消した。だが党内の情報だけは、子飼いの記者から継続的に伝えられていた。結いの党の江田憲司氏が、しつこく党内に手を突っ込んできていることもわかっている。また石原慎太郎氏や平沼赳夫氏にシンパシーを感じている者もいることも、渡辺氏は知っていた。
前者のターゲットになっているのは、大熊利昭氏や佐藤正夫氏などだ。彼らが浅尾代表の党運営に不満を述べているのは確認済みだが、しょせんは1年生議員なので、どう動こうがたいしたことはない。そもそも渡辺氏の力なくしては、議員バッジを付けることはなかったはずの連中だ。
しかし後者については、深刻に考えなければならない。とりわけ長老格の江口氏が動くなら、党の基幹が揺らぐことにもなりかねない。「もう一度会って話がしたい。話せば江口氏なら、自分のことを理解してくれる」。夕食の申し出はそのサインだったが、それを江口氏が断ったことは、渡辺氏にとって大きなショックだった。「これは離党だな。しかもすぐに」。渡辺氏はそう確信した。
(つづく)
【永田 薫】
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