日本政府は20日、従軍慰安婦への日本軍関与を認めた「河野談話」(1993年)の作成過程で、日韓政府間のすり合わせがあったとする検証結果報告書を国会に提出した。「従軍慰安婦問題」の真実は何だったのか?
(1)河野談話の根拠とされる元慰安婦の聞き取り調査結果について、裏付け調査は行なっていない。
(2)河野談話の作成過程で韓国側との意見のすり合わせがあった可能性がある。
(3)河野談話の発表により、いったん決着した日韓間の過去の問題が最近になり再び韓国政府から提起される状況を見て、当時の日本政府の善意が生かされておらず非常に残念である。
以上である。
検証チームによる報告は、この石原証言を全面的に再確認した。つまり、「河野談話」は真実解明の末に出された談話ではなく、問題打開のために出された政治的談話だったという点。そして現時点でさらに大事なことは、(3)のポイントだ。つまり「再び韓国政府から提起される状況は(中略)非常に残念である」ということ。不思議なことに、日本の新聞各紙や韓国メディアが、意識的に回避しているように見える論点である。(3)の部分についての論及を、報告書から直接引用する。
「日韓両国間では、慰安婦の問題を含め、両国および両国民間の財産・請求権の問題は、法的には完全かつ最終的に解決済みであり、韓国の元慰安婦に対しては、個人的な賠償となる措置は実施しないことを想定している旨、韓国側には確認していた」。
「翌94年の夏に入り、日韓の事務方のやりとりにおいて、韓国側からは、韓国の世論の1つには被害者とその関係団体があり、彼らの要求は補償をしろというものである一方、慰安婦問題であれ、何であれ、日本政府に何かを求めることはそろそろ止めにしようという世論もあり、数でいえばこちらの方が多いとの率直な意見が述べられた」。
筆者は1989年10月から94年3月まで、毎日新聞ソウル特派員であり、韓国人慰安婦の「登場」から「河野談話」までの経緯を、現地で取材して来た。だから、この報告書の記述は、当時の状況を正確に記述していると断言できる。
(つづく)
【下川 正晴】
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<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授を歴任。2007年4月から大分県立芸術文化短期大学教授(マスメディア論、現代韓国論)。
メールアドレス:simokawa@cba.att.ne.jp
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