韓国北東部の軍事境界線近くで先日、22歳の兵長が乱射事件を起こし、韓国中は騒然となった。犯人の兵長は「兵役制」で入隊し、あと数カ月で除隊になるところだった。「あと数カ月辛抱すれば出られたのに。内部でよほどのことがあったのでは・・・」と不可思議にとらえる国民も少なくなかったと言う。
韓国の兵役制は、おおよそ陸軍、海兵隊が21カ月、海軍が23カ月、空軍が24カ月という任期。以前は「36カ月」という時期もあったが、大幅に短縮された。ある韓国人事情通は、「韓国では『自ら志願して』兵隊に行く男性はほとんどおらず、『逃れられるものならば逃れたい』と考えている」と指摘したうえで、「『徴兵での思い出話』『徴兵生活でのサッカーの話』は除隊後の男たちの自慢話。親戚の集まりや、男性が女性と食事する際の会話は必ずといっていいほど『兵隊時代』の話がメインとなる。なかでも『海兵隊』は訓練が過酷で上下関係が厳しく、朝鮮戦争やベトナム戦争で成果を残したこともあり、属することだけでもステータスとなっている。さまざまな適性試験があるが、『父親が行き、息子も父の話に影響を受け、海兵隊を志願する』というケースも少なくない」と話す。有名芸能人のヒョンビン氏が海兵隊に志願入隊したことで話題になった。また、一部の高齢者からは「徴兵されてこそ一人前の男だ」と徴兵制への根強い支持もあると言う。
一方で、「できるものなら兵役を逃れたい」ということで、政治家や財閥会社の経営者、周囲の医者らが結託、偽装して息子を兵役から回避させることがあるそうだ。「心身虚弱」「虚弱体質」などと医者に処方させ、「医学的に現役の服務が不可能」あるいは「現役・補充役の服務が不可能なほどの疾病、心身障害を持つ者」と判定させることが主流の逃れ方。一般的に「兵役任務が不可能」と判定されると、社会的にマイナスのレッテルを貼られ、就職や結婚にも影響を与えるというが、財閥企業の金持ち子息には「コネや人脈」がいくらでもある。一方で、虚偽の理由で兵役を回避し、それが後にばれた場合、再度、召集をかけられることもあるという。
台湾でも兵役制があるが、任期は大幅に減らされ、制度「撤廃」の声も聞かれはじめている。中国との緊張が緩和したことにも由来する。他方、韓国では、北朝鮮と陸続きで常に有事の可能性を抱えていることもあり、「兵役撤廃」という声はほとんど聞かれないと言う。韓国人事情通は「たしかに兵役での生活は厳しい。しかし、若者の生活規律が養われるという一面もある。善し悪しは別としても、日本に徴兵制が導入されたら"オタク"は減るかもしれない」と独自の見解を語ってくれた。
【杉本 尚丈】
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