今後、大半のスタッフは解雇され、数名のスタッフだけが残り、2年先の結婚式の予約が完了まで事業を行なう。「女性の35歳と36歳では、一歳違うだけでも大きなハンデとなる。そのようなことを考えると、早めの決断をせざるを得なかった」と児島社長は語る。
現在、解雇する従業員の転職の斡旋に奔走している。経営者として事業をやめ、従業員を解雇することは、まさに断腸の思いであるに違いない。だが、再就職先との交渉を含め、存在しない7月分の賞与支払いなど、経営者としてできることは精一杯やった。9万組のカップルを幸せにしただけではなく、スタッフのその後の幸せをも真剣に考えている。
3月の休刊号は、金額として推定で最低でも3,000万円以上の広告収入を得ている計算となる。費用対効果の高い媒体として、クライアントは評価していたのだろう。
3月に休刊を発表した際、数多くの企業が媒体ロゴとノウハウの利用を含めた権利の買収を打診してきたという。しかし、児島社長はそれをすべて断った。同社の営業と編集は、プライドを持って仕事に取り組んでいたことがうかがえる。児島社長だけではなく、数多くのスタッフが今のメロンを築き上げてきただけに、特別な思いがあるのだろう。児島社長だけではなく、スタッフは、この媒体を他人の手でいろいろと変えられることに耐えられないと判断したのか。売却すれば、権利金を含めて大きなお金が入ってくるかもしれないが、お金の問題ではなかった。一抹の寂しさも感じられるが、余裕のある時にこのような決断をした児玉社長からは、経営者としてのエゴがまったく感じられない。
児島社長の経営判断には評価すべきものがある。その際たるものは、従業員の幸せを追求してのものである。従業員の幸せがあって、結婚する人たちへの幸せを提供できる。引き際も、従業員を第一に考えたものであった。
人をコマ扱いし、数多くの媒体がなくなっていく福岡の出版業界。ガリヤの顛末は、その最たるものであった。それとは対照的なメロンは、秀逸な経営者によって、伝説の媒体となった。
(了)
【矢野 寛之】
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