それから、原発推進が抱えている別の課題もある。韓国政府は東海(日本海)の海岸沿いに、原子力発電所と火力発電所が同時に建設される大規模発電団地の建設を計画している。そこで生産された電力は、ほとんどが首都圏で利用することになるだろう。
問題は送電網である。東海岸から首都圏まで電力を送電するためには、200kmの送電網が2つほど追加で必要になる。
現在、原発の電力を都市へ送電するための90kmの送電網建設計画も、住民の反対で4年間事業が遅延している。送電網建設に反対する住民が、自殺を図るといったようなことも発生した。
このように、住民反対だけでなく、送電網建設のための土地の収用などいろいろな費用が発生していることを考慮する必要がある。
それに、首都圏の電力需要をこのような長距離送電網に依存することになると、電力需給の不安定性は増加することになる。首都圏に向かっている送電網で、万が一事故でも発生したら、全国停電につながる可能性もある。一部学者は、今の送電網の状況下でも、長距離送電による事故を懸念している状況である。
それから、原発が増えると、需給バランスをとるのも段々難しくなる。電力は需給バランスがすごく大事である。一瞬でもそのバランスが崩れると、大きな事故につながる可能性がある。瞬間的に需要が激減する場合もあれば、送電線のトラブル、発電機の故障などで供給が急減する可能性もある。
1秒でもこの需給バランスが合わないと、停電になる。しかし、原発は24時間同じ量の電力を生産する。専門用語で、負荷追従ができない電源である。石炭発電の場合、ある程度負荷追従はできるが、瞬発力が良くない。休んでいる石炭発電機を稼動させるためには、相当な時間が必要になる。
韓国の原発推進のモデルになっているフランスは、原発の割合は電源の70%を占めている。フランスは隣国と電力をやり取りできる環境なので、それが実現できている。
しかし、韓国の場合には、他の国の電力網と連動していない孤立電力網である。この場合、大規模の電力貯蔵装置がない限り、原発の割合を40%以上上げるのは無理である。電力需要の急激な変動に対応するためには、10分以内発電可能な水力発電、または天然ガス発電を一定の水準で維持する必要がある。
以上のように、原発を電力需要の増加の解決策として提示するには、検討しなければならない課題がさまざまあって、それを十分検討したうえでの推進が必要になる。
次に、エネルギー転換論者の主張を検証してみることにしよう。
まず需要の側面での需要の削減を主張しているが、電力需要は性格上、短期間に削減がするのが容易ではない。できるだけ節約しないといけないことはわかっているが、製造業中心の経済活動と国民所得の増加によって、電力需要は当分の間、増加の傾向にあるだろう。韓国の電力需要は、需要が飽和状態に達しているヨーロッパとは状況が違う点も留意する必要がある。
供給の側面からは、再生エネルギーへの転換を主張しているが、残念ながら韓国の電力網は孤立電力網なので、再生可能エネルギーの拡大にも隘路になっている。太陽光発電、または風力発電は、天候の状況によって発電量の変動が激しいため、供給サイドで大きな問題を起こす可能性を孕んでいる。また、太陽光の場合、日照が強くなると、太陽光パネルの高熱により、発電効率が落ちてくる。
ヨーロッパのように隣国と電力網が連動している場合には、そのような需給の変動に柔軟に対応できるが、韓国の現在の状況では、急激な再生可能エネルギーへの転換は大きな問題を抱えている。
再生可能エネルギーは、供給の安定性と電力網の運用において課題がある。
しかし、大容量電力貯蔵装置の普及、それから発電需要予測などの技術を蓄積しながら、今後、徐々に再生可能エネルギーにシフトしていくのが望ましいだろう。
(了)
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