6月初旬、パソコン周辺機器の大手メーカー・バッファロー社の無線LANルーターのプログラムを更新すると、インターネットバンキングのIDと暗証番号を盗み取られるウィルスに感染するという事件があった。新刊『ネット護身術入門』の著者で、情報セキュリティの第一人者・守屋英一氏は「今や、安全は誰かによって保証され、与えられるものではなくなりました。あなたのお金と個人情報はあなた自身が守る必要があるのです」と警鐘を鳴らす。
守屋英一氏(以下、守屋) 基本的な攻撃手法は従来と同じですが、3つの大きな変化が見られます。1つ目はその攻撃対象が高度な情報入手を目的としたものに加え、お金やポイントを盗むことを目的とするものまでとても幅広くなってきていることです。内容についても、高度に政治的なものから、先日PC遠隔操作の威力業務妨害罪で再逮捕された片山被告のような愉快犯的なものまで多様化しています。
私は15年間セキュリティの専門家としてサイバー攻撃の監視を行なってきています。しかし、誰かに今「自分のパソコンが感染しているかどうか教えて下さい」と言われても、即座に「大丈夫です」などと回答することは難しいと思っています。10年ぐらい前であれば、
パソコンの操作が遅くなっているなど、専門家はもちろん、少し詳しい方ならすぐわかるチェックポイントがいくつかありました。既に5年以上前からこれらのチェックポイントは意味をなさなくなってきています。
最近のウィルスは隠蔽化技術がとても発達しています。表面上は何も起こらず、しかも調べようと思った時には、既に"悪さ"を終え、自動的にそのウィルスが削除されてしまうのです。そうなってしまうと専門家でも、"デジタルフォレンジック"などのかなり専門的手法を使ってしか調べようがありません。技術も高度で、時間も費用もかなりかかります。もちろん個人ベースで行なうことはとても難しくなります。
(つづく)
【金木 亮憲】
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【注】デジタルフォレンジック:不正アクセスや機密情報漏洩など、コンピューターに関する犯罪や法的紛争が生じた際に、原因究明や捜査に必要な機器やデータ、電子的記録を収集・分析し、その法的な証拠性を明らかにする手法。
<プロフィール>
守屋 英一氏(もりや えいいち)
2007年に日本アイ・ビー・エム(株)入社。セキュリティ・オペレーション・センターを経て、11年に、経営品質・情報セキュリティ推進室に異動。社内の不正アクセス事件およびISMS内部監査を担当。社外活動として、明治大学ビジネス情報倫理研究所客員研究員、警察庁、経済産業省等のセキュリティ関連WG構成員・研究員を務めている。12年度NPO日本ネットワークセキュリティ協会表彰個人の部を受賞。著書に『フェイスブックが危ない』、『フェイスブック情報セキュリティと使用のルール』、新刊『ネット護身術入門』がある。
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