長崎県佐世保市宇久。名前を聞いてピンとくるのは、おそらく釣り人くらいではなかろうか。博多港からフェリーで4時間半。五島列島の北端に位置する宇久島は、かつて大手携帯電話会社のCMロケ地に使われたほど美しい景観の島である。
船着き場でフェリーを降りると、非常にのどかで静かな島の風景が目に入る。標高258mの城ヶ岳がゆったりとすそ野を広げる火山島だ。岩盤がむき出しになった崖状の海岸線や長い砂浜、広い牧草地、うつくしい松林など、見る者の心をくぎ付けにする。歴史的にも意義のある島であり、壇ノ浦の合戦後に平清盛の弟、平家盛がこの島に流れ着いたという。宇久次郎家盛を名乗り、宇久氏の祖となって五島を治めていったという伝説も残っている。
先述したとおり、ここは釣り人の間では有名な釣りスポットだ。岩場から竿降り真鯛などの大物を狙う。取材で訪れたときも、10名くらいの釣り人とともに船を降りた。これだけ美しい島だが、普段は釣り人以外の観光客はまばらなのだそうだ。長期休暇のとれる夏季などは、長崎・佐世保から家族連れが訪れるそうだが、それ以外で島を訪れるのはほとんどが釣り人なのだという。
この島の美しさの裏には、離島ならではの問題が大きく横たわっている。
「島内の高齢化が進んでいます。60歳を超える方の数が全島民の半数近くという印象です。かつては漁業の島だったのですが、今では畜産家が主体となりました」。
宇久行政センターの担当者はそう語ってくれた。高齢化が進んでいることは、離島する人が増えていることよりも、印象としては少子化の影響が大きいという説明もあった。
一方で、ある島民はこう指摘する。
「平均年齢としては50代後半になるだろうが、それは0歳児まで入れての計算。過半数が60代の島というイメージだ。年間100人ずつ減っていっているのは少子化も原因だが、やはり島に残ってもらえない、産業がないということが原因ではなかろうか。このままでは加速的に人口が減ってしまう」。
美しい島は島民の努力と人の暮らしがあってこそ守られている。しかし、離島で人が暮らすには、都市部にはない苦労がある。消費地までの輸送手段が限られる。島内で閉鎖した経済圏がある。産業を誘致する優位性がない。おそらく、多くの離島が同じような問題に直面し、その解決策も見つけることができずに徐々に体力を減らしてしまっていることだろう。
しかし、その宇久島に、大きなチャンスが訪れている――。
(つづく)
【柳 茂嘉】
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