そもそも田中前頭取から全幅の信頼を得て後継の頭取に就任した田原氏だったが、何故わずか２年で更迭されたのかと疑問に思われる読者の方も多いのではなかろうか。そこで先に登場した事情通に再度尋ねると次のような答えが返ってきた。（以下、事情通の話）

　――まず第一番目に挙げられる要因は、雑誌『選択』に掲載された次の通りの事情。

『選択』2004年８月号「経済情報カプセル」より一部抜粋

　具体的に言うと、田原新頭取が就任して僅か３カ月後の９月中間決算で、田中相談役の了解を得ることなく、不良債権を処理するために大幅な赤字を計上したからだ。
　相談役が、「就任して間もないのに、掌を返したように赤字決算に踏み切るとはけしからん」と、不快感を漏らした頃から二人の間に亀裂が生じたといわれる。

　一方頭取に就任したばかりの田原氏の心の中は、「福岡銀行は昨年不良債権処理のため思い切って赤字決算に踏み切り、今年３月期の決算で業績を急回復させている。それならば当行も思い切って不良債権を処理すべきではないか。しかも下期には金融庁検査が間違いなく入る。そうであれば金融庁検査の指摘を受けて赤字決算に追い込まれるのではなく、その前に自分の手で不良債権を処理しておいた方が得策」との結論に達し、最終的に赤字決算を決断した。
　田原新頭取は不良債権を一括処理するため、９月の中間決算を赤字にすると発表。破綻先および実質破綻先債権250億円の償却と同時に、厳格な企業格付を実施。更に破綻懸念先および実質破綻先の100％引当や要管理債権・要注意先の貸倒引当率の見直しも実施した結果、300億円近い貸倒引当金を積み増し、その総額は1,250億円に膨らんだ。総貸出金３兆円に対する引当率は４％となり、不良債権比率は５％台から一気に３％台と大幅な改善となった。
　田原頭取が実施した赤字決算を待っていたかのように、その年の11月初旬、金融庁検査が実施されたが、厳格な自己査定による不良債権の処理が高く評価されて、新たな引当金の積み増しを指摘されることはなかった。
　何の問題もなく金融庁検査が終わったことで、行内では田中相談役の傀儡と見られていた田原頭取への評価が上がり、むしろ10年の間、不良債権処理を放置していた田中相談役に、批判の目が向けられるようになっていった。この明暗が二人の関係を大きく悪化させた原因だと思う。

（つづく）
【北山　譲】

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