わが国の医療費はすでに30兆円を突破している。40兆円を割り込み、なおも減り続ける税収とほぼ拮抗するところまできている。歯止めのかからない人口の減少、少子高齢化の進行が将来的に深刻な医療費不足を招くことは、今や識者の一致した見解となっている。
「健康長寿」という言葉がある。寝たきりの身体で、レスピレーターにがんじがらめにされたパイプ症候群長寿ではなく、健康な肉体と精神を維持して人生を全うする長寿のことだ。わが国の糖尿病患者は800万人を超え、予備軍も合わせると2,000万人に達している。国民の健康づくりを推進すべく、10年前に厚生労働省が唱えた「健康日本21」運動もその実効性に乏しく、2年前に新たに打ち出された改訂通知ではさらに一次予防(生活習慣病など)の重要性を訴え、メタボ検診などの新しい試みを導入した。しかしこれらの試みも実際にはうまく稼動していないのが実情だ。もはや一次予防は国民みずからがみずからの意思で推進しなければ机上の空論で終わることは明らかである。
そこでデータ・マックスでは、「健康」をキーワードにビジネスを展開している企業を取りあげた連載を企画する。きれいごとでは済まされない現場の苦労や経営のさまざまな悩み、そして今後の展望を紹介していく。
日本伝承医学の復活を目指す
~エス・エフ・シーグループ 代表取締役会長 島田 修 氏
エス・エフ・シーグループ(熊本県熊本市、電話:096-358-3144)は、ビワ葉療法を柱とした活動を33年間続けてきた。その根底には長い歴史を持つ東洋医学の思想が脈々と受け継がれている。同社は昨年、日本伝承医学普及のための拠点とし、光明皇后の施薬院にちなんだ「施楽院」の第1号を熊本に、第2号を東京の調布に開設した。
<1500年の伝統を継ぐ施楽院>
私がビワ葉療法の普及活動を始めて、33年になります。これは古来2500年の歴史を持つ伝承医学を引き継いだもので、「正しい伝承医学を伝えていくこと」を使命と考え、「日本ビワ温圧療法師会」を設立して活動してきました。施楽院(せらくいん)はその集大成と位置付けています。
歴史をひもとけば、およそ今から1500年前、光明皇后のつくられた施薬院というのが施楽院のルーツです。施薬院そのものが、悲田院といわれる養護施設みたいなものと、病人向けの施薬院というものを基本にして、日本古来の治療院として出発しています。そしてそれが戦前まで続いてきました。光明皇后のあとは聖徳太子が天皇家の勅命を受けて四天王寺を作り、治療院を受け継いでいます。
実は、この話には大事な点がありまして、本来、わが国における歴代の医療というものは、統治者たちが国民のために整えた医学体系に基づくものなのです。病気はわが国独自の風土や気候のもとに生じます。歴史が重なるにつれて、ますますそれに合わせた対応が必要になってくる。これは日本独自の民族医学の体系なのです。それが1500年間も続いた。
治療院はその後、豊臣家、徳川家に引き継がれます。とくに徳川吉宗は江戸の小石川に薬草園をつくるなどし、これが施薬院の原点になりました。ところがその後、太平洋戦争があって、日本はアメリカの占領国となることで、その占領政策によって日本の伝承医学は潰されてしまいました。戦後制定された医師法により、「医師以外の職業が医業に携わることを禁じ」られたからです。せいぜい生き残ったのは、鍼灸と漢方系と伝統薬くらいのものです。
アメリカはその占領政策で、自国における小麦の需要を増やすためにわが国にパン食を普及させました。米食をやめさせることで、国民性を根底から崩していくのです。食の現場を変えれば、人間性は変わる。食文化を崩壊させればその国はいずれ崩壊してしまうということを、彼らはよく知っていたわけです。太平洋戦争が残した傷痕は、両国にとってそれほど深かったということでしょう。
【聞き手、文・構成:田代 宏】