消費者庁で行なわれている「健康食品に関する表示検討会」も、いよいよ大詰めに差しかかった。健康食品業界や消費者団体、医師会、有識者による討議が、最終的にどこに落としこまれるのかは今のところまったくわからない。
ただ、一部の団体代表を除いて、現在の健康食品があまりにも情報過疎のなかで売買されているという認識は、共通のものになりつつあるようだ。
通信販売メーカーに寄せられる消費者の声のなかには、「用量が表示してないばかりに、飲みすぎておなかをこわした」などという笑えないクレームがあるという。消費者は消費者で、健康食品が「効果効能」を標榜できないという法的制約を知らずに買っている人がほとんどなのである。ちなみに、知人の親はテーブルに置いてある健康食品を「クスリ取って!」といまだにのたまうそうである。
食品安全基本法第19条には、「食品の安全性の確保に関する教育、学習等」として、「食品の安全性の確保に関する施策の策定に当たっては、食品の安全性の確保に関する教育及び学習の振興並びに食品の安全性の確保に関する広報活動の充実により国民が食品の安全性の確保に関する知識と理解を深めるために必要な措置が講じられなければならない」とある。教育、学習とはいかにも上から目線であるばかりか、聞いているうちに眠たくなる冗漫な文章だ。
一言で言えば、消費者にもっとわかりやすく広報しなさいということではないか。とはいえ、規制でがんじがらめにして、ときどき見せしめ的に100億円規模の健康食品メーカーを指導したところで、ネットに氾濫するあまたの違法業者はとても取り締まることはできまい。戦々恐々の生真面目なメーカーは、自粛して損をするというのが現実だ。
では、ますます規制を強化することで、行政は健康食品を市場から放逐してしまおうというのだろうか。すでに2兆円近い規模にまで成長している健食マーケットを、がん患者の4人に1人が利用したことがあるとされる健康食品を、である。そうなると、陰で泣くのは業界人ばかりではなさそうだ。
博多駅界隈のある健食通販メーカーに話を聞くと、同社は1月に社名を変更し、今年の秋以降、「販売している健康食品を徐々に医薬部外品に変えていく」と吐き捨てるように言った。すでに化粧品は医薬部外品として売り始めているらしい。「薬事法で取り締まるのはどんどんやればよい。ただ、実際にダイエット効果をうたって販売している商品は市場に氾濫しているし、この規制のあいまいさをなんとかしてはどうか!」と拳を振り上げた。ヤミ金融と同じで、いくら取り締まっても、違法行為は闇に姿をくらますだけではないのか。
健康食品の発祥ともされる沖縄県でも、ここ数年マーケットは縮小を続けている。表示規制ばかりが問題ではないのだが、それでも消費者庁の発足には警戒感をにじませる。
「ブームからブランドへ、次のステージへ移行する段階にある」とは、沖縄県の産業振興をサポートする内閣府・沖縄総合事務局地域経済課職員の声。「たしかな産業振興へシフトする」という。
この声を反映するかのように、沖縄県では国の示したガイドラインを満たしたGMP認定工場を準備する動きがある。県内企業を10社選定し、2年のあいだ、認定取得のための支援を行なう。GMP認定工場とは、一定の安全性基準を満たした工場にだけ与えられる認証だ。
また、アジア市場を志向する企業を支援する体制も構築する。これは、九州における産業クラスター計画にも似たことがいえる。
これはこれで結構なことかもしれないが、地場振興を役割として担う地域の行政官は一様に表示の問題に苦しめられているようだ。というのも、健康食品には、農産物の二次利用から生み出されたものが多いからである。農水省が唱える「地産地消」ということばは美しいが、商品化された健康食品が結果的に売れなければゴミの山を築くだけである。それは膨大なムダの堆積にすぎないばかりか、果てしない負のスパイラルに陥るおそれもある。縦割り行政の弊害も正すべきではないか。
表示検討会は、今月19日に5回目を迎える。今回の個別テーマとされる「消費者相談の現状」については(独)国民生活センター調査役で同検討会委員の宗林さおり氏と(社)日本通信販売協会副会長で同じく委員の宮島和美氏が報告したあとに意見交換が行なわれる。また、「景品表示法の運用実態について」は、消費者庁表示対策課の職員が報告する予定だ。
将来につながる討議になることを期待したい。
【田代】