ティナナで学んだもう一つの価値観
お客さまに喜んでいただかなくてはとても続けられないし、そのへんをもっとうまく伝えること、喜びとか悲しみとか楽しさとかを伝えていく方法が、探せばもっとあるように思います。それとも、この仕事を辛いと感じる人のほうが多いのでしょうか。そりゃあ、大儲けして嬉しいということもあるでしょうが、「あなたのところの醤油は最高」と言われるような喜びもあるでしょう。
これからの日本を考えますと、人口も減ったわけですし、「世界一の経済大国」と言われるようなことも今後は考えられません。そうなると、これまでとは違ったところに幸せ感を見出さなければならないのかなと思います。そういう意味では、今年はゆり戻しの時期で、消費者の方も含めて、ようやく違った価値観を見出しはじめたのではないかと感じられます。
かつてブータンの国王が、GNP(国民総生産)ではなくGDH(国民総幸福量)が大事だといって話題になりました。この国の貧困なある村が電気を引いて豊かな生活になろうという計画を立てたらしいのですが、電気を引くとその村に鶴が来なくなるというので、結果として電気は引かないという選択肢を選びました。どうでしょうか、果たしてこの村は不幸でしょうか。わが国もお金をどんどん使って飽食をして、あげくの果てに病気になる。いったいどこまでいくのか、今後考えていく必要があるのではないでしょうか。
そういうわけで、私たちも専門店の店頭におけるお客さまとの接点のなかで、何かを感じることができないかという思いでおります。
尾道市でティナナ(写真)という店舗を始めるようになってからは、よけいにそう感じるようになりました。本来ならば人口が15万人もいないような町でああいう店が成り立つわけはないのですが、なんとかギリギリ経営が成り立っています。講習会などもやりながら、慕ってくれるお客さまがいらっしゃるということは、とても喜ばしいことです。
【文・構成:田代 宏】