「追跡!A to Z」がん代替療法に苦言
3月20日、NHKの特別番組「追跡!A to Z」で代替療法が取りあげられた。『がん患者が注目!どうつきあう?代替療法△1兆円市場の実態は?』と題して、乳がん切除の経験を持つタレントの山田邦子をアシスタントに迎え、代替療法として利用されている健康食品の明暗にスポットを当てた。番組に先立ち、業界ではこのことが早くから取りざたされていた。
番組では「効くのか、効かないのか?」などと、司会が代替療法の効果に疑問を投げかけたり、モザイク入りの悪質業者が「がん患者はカモ」と告白するシーンを編集したりと、代替療法の暗部をあぶり出すような構成だった。厚生労働省(以下、厚労省)の足立政務官を登場させる中盤となると、「体験談で興味を引こうとしている」というコメントを引き出し、その違法性をクローズアップした。
ラストは治療の不安から代替医療に向き合った女性患者が、最終的に治療院に帰っていくシーンで幕を閉じた。
いうまでもなく、違法な売買が良心的ながん患者を食い物にしているケースもあるかもしれないが、一方で、代替医療を用いることによって副作用を緩和したり、薬剤や手術に頼ることなく日常生活を維持している患者も多いことを忘れてはならないだろう。
患者(購買者)の自己責任や医療の問題からは焦点をそらしたやや情緒的な番組構成が気になった。
ネットIBで既報のとおり(健康情報サイト2月22日)、現在、厚労省研究班によるがん研究助成金「がんの代替医療の科学的検証に関する研究」が開始されている。番組にも登場した東京女子医科大学国際統合医科学インスティテュート・大野智准教授らが進めるプロジェクトだ。
「抗がん剤の副作用がサプリメントの使用によって大幅に軽減される」といった患者などからの報告に対し、第三者的立場で厳密に審査しようとする取り組みである。このような画期的な取り組みに対して同番組が水を差すような結果にならなければよいと思う。
グレーゾーンがなくなる日も近い?
3月18日、消費者庁は「第7回健康食品の表示に関する検討会」を開催、同検討会における2回目の論点整理に向けた意見交換が行なわれた(同3月19日既報)。
検討会では消費者団体による健康食品に対する初歩的な質問に対し、業界側が振り回されているような印象さえ受ける。これですでに7回を終えたことになるが、質問攻めに合ううちに、気が付いたときには論点整理となって消費者委員会に下駄を預けることにならないとは限らない。最終的には同検討会では参加委員による決議を行なうことはなく、座長と事務局で論点をまとめた上で消費者委員会にその後の論議をゆだねるからだ。
特定保健用食品をなくすはずがないと一部で囁かれている田中座長だが、もしそうだとすれば、今回の検討会で業界サイド寄りの委員を難詰する態度さえみせた同氏が、健康食品に不利なまとめ方をすることは大いに考えられるのではないか。今回の検討会の参加メンバーはすべて消費者庁の指名によって選ばれているという話もある。厚労省時代に行なわれていた公募制は敷かれていないのだ。
「厳しい時代が来ると思う」とは、サプリメント法の制定を望むある識者の声。
厚労省がクッション的な役割として見逃していたグレーゾーンもなくなるかもしれないという悲観的な見方もある。そうなると、当局が宣伝媒体であるメディア規制に走ることも考えられる。これまでは少なくとも、業界紙などBtoB(業者間取引)における媒体記事に薬事法や景表法などの規制はかかりにくかったが、「今後はわからない」との声もある。
健康食品市場は現在、1兆1,000億円強といわれている(特定保健用食品は除く)。ブラックマーケットはもちろんだが、ここにネットワークビジネスや訪問販売などの無店舗販売の数字が正確に織り込まれているかどうかは不明である。あるいは、がん患者の2人に1人が利用するとされている代替医療のいくらかはカウントされていない可能性もある。とすれば、健康食品市場は1兆円をはるかに超えている可能性すらある。
この市場をまったく無にすることができないというのは、誰が考えても明らかなことである。ではどうするか?
同検討会はこの問いに真摯に向き合うべきときにある。
【田代】