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ビタミンのはなし(5)~ビタミンCとライナス・ポーリング

2010年3月 1日 10:16
伊藤 仁

 ライナス・ポーリング(1901年~1994年)というアメリカの科学者の名前をお聞きになったことはあるだろうか。ポーリングは1954年にノーベル化学賞、1962年にノーベル平和賞を受賞している。一人で複数のノーベル賞を受賞したのは、ほかではフランス人のマリー・キュリーだけである。
 特にノーベル平和賞については、1946年からアインシュタイン博士らと共に、一貫して核兵器開発に反対を唱えた活動への授与であり、被爆国の国民としては称賛に値する行為と考える。
 ポーリングは量子力学を化学に応用した先駆者であり、1950年代からの研究のなかで、体内物質の濃度を調整することで病気の予防や治療が可能になるのではないかという分子矯正医学(orthomolecular medicine)を唱えた。1970年に「ビタミンCとかぜ」という著書を出版した。大量のビタミンCを摂取すると、風邪やインフルエンザの予防になると主張し、自らも毎日10グラム前後のビタミンCを摂り続けていた。
 また、1977年に医師のキャメロンと共著で『がんとビタミンC』を出版、医学会をはじめ世間一般に大きな衝撃を与えた。このビタミン大量療法(メガビタミン主義)の臨床的効果は、否定的見解が多い。ただし、アメリカのNIH(国立衛生研究所)は、大量・高濃度ビタミンC点滴療法が、がんに対して有効かどうかの臨床試験を現在実施している。
 1981年、80歳のときに来日したポーリングは、講演のなかでメガビタミン主義について次のように主張している。
「身体のあらゆる部分でビタミン、特にビタミンCが大量に消費されているため十分な補給が必要である」
 ストレスに対抗するため、免疫機能の維持・向上に大量のビタミンCの摂取を勧めていたのが印象的だった。ビタミンCは他の12種類のビタミンと違い、体内で合成されない。したがって、野菜や果物などの食物で、毎日きちんきちんと摂取しないとビタミンCの欠乏症状をひき起こすことになる。 

(つづく)


<プロフィール>
伊藤 仁(いとう ひとし)
 1966年に早稲田大学を卒業後、ビタミンのパイオニアで世界最大のビタミンメーカーRoche(ロシュ)社(本社:スイス)日本法人、日本ロシュ(株)に就職。「ビタミン広報センター」の創設・運営に関わる。01年から06年まで(財)日本健康・栄養食品協会に在籍。その間、健康食品部でJHFAマークの規格基準の設定業務に携わる。栄養食品部長を最後に退任。

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