ビタミンCが持つさまざまな効用の具体的な研究内容とその考察をご紹介しよう。
<血圧との関係>
鹿児島大学の吉岡満城が行なった研究によると、最大血圧160mmHg以上(正常値140mmHg未満)/最小血圧95mmHg以上(正常値90mmHg未満)の高血圧患者に、ビタミンCを1日2,000mg 、8週間摂取してもらった結果、最大血圧は平均13.8mmHg、最小血圧10.8mmHg低下した。ビタミンCを毎日、2,000mg摂取することにより、動脈硬化の重要な要因である高血圧、高脂血症を有する症例には極めて有効であることが示唆されている。
<鉄欠乏性貧血の予防>
鉄やカルシウムなどのミネラル類は、ビタミンと同様に人間の健康に大切な栄養素である。通常、これらのミネラルを肉・野菜・牛乳・卵・魚などから取り入れているが、最も重要なミネラルである鉄については、特に女性には重要な成分にもかかわらず、その摂取が十分でないことが多い。鉄分が不足すると、貧血(大切な酵素の取り込みが依存する血中の赤色素の欠乏した状態)になるが、その一歩手前の鉄欠乏性貧血が特に若い女性によく観察される。日本人は鉄分を非ヘム鉄である野菜・穀類・乳製品で摂取しているが、その腸管吸収率は数パーセントにすぎない。しかし、ビタミンCを1日当たり50 ~100mg摂取すれば、非ヘム鉄の吸収は4倍から10倍ほど上がる。
<ニトロソアミンの生成抑制>
昔から日本人に多い胃がんの要因としてヘリコバクター・ピロリ菌(単にピロリ菌ともいう)が挙げられる。ここのところよく耳にするが、以前から焦げた魚などを食したときに生じるニトロソアミンが、発がん物質として深く関与していることは疫学的にも証明されている。ニトロソアミンは亜硝酸とアミンが反応して生成する。ところが、十分な量のビタミンCがあると、亜硝酸が酸化窒素に還元されてアミンと反応しなくなり、ニトロソアミンが生成されなくなる。また、ニトロソアミンそのものが体内に入ってきたときに、十分なビタミンCが存在するとニトロソアミンの発がん性をなくす働きもある。
以上のとおり、「血圧調整」「鉄分の吸収」、さらに「ニトロソアミンの生成阻止」だけをとっても、毎日十分な量のビタミンCを摂取することが必要であることがお分かりいただけたと思う。
(つづく)
<プロフィール>
伊藤 仁(いとう ひとし)
1966年に早稲田大学を卒業後、ビタミンのパイオニアで世界最大のビタミンメーカーRoche(ロシュ)社(本社:スイス)日本法人、日本ロシュ(株)に就職。「ビタミン広報センター」の創設・運営に関わる。01年から06年まで(財)日本健康・栄養食品協会に在籍。その間、健康食品部でJHFAマークの規格基準の設定業務に携わる。栄養食品部長を最後に退任。