ビタミンAはレチノールともいわれ、動物の生体内ではビタミンAの働きをする。一方、植物中にはβ-カロテンと呼ばれるプロビタミンが存在する。β-カロテンは体内のビタミンAが不足すると小腸上皮細胞でビタミンAに変換されて利用されるので、プロビタミンAと呼ばれる。ビタミンAのヒトでの働きは、夜盲症や角膜乾燥症を防ぎ、皮膚や粘膜を正常に保つ働きがある。皮膚や粘膜はウイルスなどの外敵からからだを守り、免疫力が向上する。
ビタミンAは体内で発生する有害物質・活性酸素からからだを守る。すなわち、身体の酸化を防ぎ細胞を強化し、老化を遅らせる。動脈硬化やがんを誘発する働きのある有害物質の活性酸素からからだを守っているのである。抗酸化ビタミンであるビタミンCやビタミンEと一緒に摂取すると、身体の酸化を防ぎ若さと健康を守るといわれる。
1926年に日本の栄養研究所の藤巻良知が、ビタミンA欠乏のネズミの胃に腫瘍が発生しやすいことを報告している。1970年頃からビタミンAの化合物であるレチノイドの大量投与が、皮膚がんや膀胱がんの抑制に有効であるとの報告が多く出はじめた。レチノイドの欠乏状態は前ガン状態に類似していることから出た発想である。例えば、腫瘍、特に急性骨髄球白血病には、オール・トランス・レチノイン酸が特効薬として医療現場では日常的に使用されている。
カロテンには、α(アルファ)型、β(ベータ)型、γ(ガンマ)型などがある。ビタミンAの効果が最も高いのはβ-カロテンである。
アメリカで1990年に成立した栄養表示教育法(NLEA)のもとでFDA(連邦食品医薬品局)は12種類の「食品あるいは食品成分と疾病の関係及び表示」を承認している。そのひとつに「果物、野菜とがん」を認め、その表示として「がんには種々の要因が関係しているが、果物・野菜に富む低脂肪食(低脂肪で食物繊維、ビタミンAとビタミンCを含む食品)は、ある種のがんのリスクを低減する可能性がある」と書くことを認めている。このことは私たちが毎日の生活で、β-カロテン、ビタミンA、ビタミンCそして食物繊維を含む食品を多く摂ることが重要だということを指摘している。
(つづく)
<プロフィール>
伊藤 仁(いとう ひとし)
1966年に早稲田大学を卒業後、ビタミンのパイオニアで世界最大のビタミンメーカーRoche(ロシュ)社(本社:スイス)日本法人、日本ロシュ(株)に就職。「ビタミン広報センター」の創設・運営に関わる。01年から06年まで(財)日本健康・栄養食品協会に在籍。その間、健康食品部でJHFAマークの規格基準の設定業務に携わる。栄養食品部長を最後に退任。