中島憲一郎教授は、覚せい剤関連化合物の研究に長年従事してきたこの分野の第一人者。2002年に死亡者まで出した、「中国製ダイエット食品」(無承認無許可医薬品)の成分分析も行っている。研究室では、「覚せい剤など乱用薬物の分析」「医薬品の適正使用に関する研究」「脳内神経伝達物質の分析研究」のほかに、「機能性食品の品質評価」も大きなテーマに掲げている。健康食品にも大きな関心を寄せており、これまでにも赤野菜やノニ、冬虫夏草などで分析研究を行なってきた。同氏に健康食品に関心を持ったきっかけや、健康食品の孕む課題、展望について聞いた。
医食同源は健食の原点
――中島先生が健康食品に興味を惹かれ続ける理由はあるのでしょうか。
中島 おおげさな話をすれば医食同源というものの考え方は本当だろうと思うのです。江戸時代から「おたね人参」という朝鮮人参の話がよく出てくるのですけれども、ああいう朝鮮人参のようなものが非常に健康に良いというか、強壮剤になるというのがずっと知られてきているわけですよね。しかし朝鮮人参そのものが売られるというのは、本当に金持ちにしか手に入らないような貴重なものでしたから、お薬として使われていた食品の代表だろうという気がしているのですが、そういうところから漢方薬にものすごく興味を惹かれたのです。
それに、大学での専攻が麻薬と覚せい剤の分析だったものですから、麻薬の発生に目を移すと、モルヒネでも何でもすべて薬草なのです。いわゆる芥子から採られているのがモルヒネですよね。また覚せい剤というのは長井長義先生という方が麻黄から抽出しました。このように原材料は天然物なのですね。ですからあえて健康食品とつなぐとすれば、食品あるいは薬草を起源としたいろんな健康への関わりといいますか、そういうものに学生のころから興味があったということですね。私が最初にやったのがモルヒネの分析でした。本来ならば麻薬取締官になりたいと思っていたのですが、天のいたずらから大学に残ることになりましたので、結果的に研究者になったのです(笑)。
健康食品そのものと関わりだしたのは、先ほどお話ししたようにノニとかを体にいいよと持ち込まれたときに、本当にいいのかどうかを調べることから興味を持ったのが始まりなのですが。
――健康食品業界にに対して一言。
中島 健康食品の会社というと、志を高く持ってほしいと思いますね。なぜかといいますと、人の健康を守っているという自信というものが大切なのではないかと思うのです。それがあれば当然倫理観というものもお持ちになるだろうし、自分たちが売っている健康食品で健康を害するなんて逆のことがあってはならないという考えに立たれるだろうと思うからです。
企業ですから、利潤を生むというのは当たり前のことなのですけれども、その利潤は次のよい食品を生み出すための資源にしてほしいなと思います。食品ですから資源に限りがあると思うのですが、この先たぶん、本当の漢方薬を原資とした健康食品というのはだんだん少なくなっていきますから、ばあいによっては枯渇していくようなことにもつながっていくと思います。新たなものを開発していくというのはむずかしいことかもしれませんが、逆を言うと今の資源をもっと有効に、かつ大切に使うようなことも、企業として考えてほしいなと思います。
難しいことだとは思いますが、いいことばかりでなくて、きちんとまもらなくてはならないことを情報として出せる時代に来ているのではないかと思うのですね。それがきちんと手当ができる企業というのは伸びていくだろうし、それを隠ぺいする企業というのは一過性のもので終わってしまうだろうなと思います。これからは健康食品の企業は淘汰の時代に入っていくと思いますが、そこが高まれば高まるほど、医薬品とは違うけれども医薬品に近いような健康食品産業というのが生まれてくるようになるのかなと思います。
1兆円産業といいながらも、それは驕ってはならないし、謙虚にあるべきだと思います。
【聞き手 田代 宏】