(株)高橋商店 代表取締役社長 高橋 努武 氏
(有)石橋屋 代表取締役 石橋 渉 氏
(株)島本食品 取締役副社長 波多江 正剛 氏
現在、人口の減少や低価格志向の進行など、国内市場ではなかなか明るい材料を見出しにくい。そのなかで、世界に視野を広げ、市場開拓に邁進する企業も存在する。世界市場に果敢にチャレンジしている地場企業3社の経営者の方々に、海外市場の魅力、可能性などについて語り合っていただいた。
(進行:弊社流通事業部リーダー・鹿島 譲二)
―みなさんの事業について教えてください。
高橋 福岡県柳川市で食品製造を行なっています。なかでも、海産物、農産物の加工品の製造・販売が主になります。ジャンルとしては嗜好性が高い珍味などが多く、魚介類の粕漬・味噌漬、うなぎ製品、ゆずこしょう等の薬味、調味料等を扱っています。
石橋 弊社の創業は古く1877年で、福岡県大牟田市にて135年にわたって事業を行なっています。手作りこんにゃくをつくっており、主に関東・関西・中部を中心に、全国に出荷しています。
10年前からは海外展開も始め、その後、さまざまな商品開発も行なっています。1つは海外向けの商品開発、もう1つは機能性を高めたもので、例としてこんにゃくのパウダーをつくっています。このこんにゃくパウダーは、産学連携で商品開発しています。私自身は、高校卒業と同時に家業を手伝い、89年から代表を務めています。
波多江 辛子明太子の製造販売を行なう㈱島本食品という会社を経営しています。業種は明太子販売で、主に一般消費者のみなさんに販売しています。社員は14名、パートを含めると50名です。3年ほど前から海外進出を考え始めました。
―海外に進出されたきっかけについて、お聞かせください。
高橋 以前に海外に住んでいたときに、日本食レストランをはじめ、海外で日本食が普及しているのを見ました。その頃から、「我々の商品も海外展開できないかな」と思ったことが始まりです。
実際に進出したのは、13年くらい前、ハワイの居酒屋にゆず胡椒が入ったのが初めです。4年前からは、本格的に海外向けの商品をつくり、輸出というかたちで海外での販売に注力し始めました。
石橋 ウチはもともと田舎で商品をつくり、都会に売っていました。たまたま大阪の百貨店さんとのお付き合いのなかでシンガポールの店舗での日本食フェアの話があり、行ってみようということになりました。
最初は好奇心での海外進出だったのですが、需要があるということがわかり、その後は北米、東南アジアと、販路を広げていきました。
波多江 私が大学に通っていたときに、留学生と話したところ「明太子美味しいよね」と言ってくれました。そこでウチの商品を見せると、「買いたい」という声も聞きました。「日本の食事は、中国人も、台湾人も、韓国人もみんな美味しいと思うよ」と言うのです。そこで、1度テストマーケティングをしてみようと、留学生の友人のネットワークを活用して販売してみました。すると、大変評判が良かったのです。そのときに、卒業と同時に挑戦してみようと思ったのが最初のきっかけです。そして、韓国で販売しているうちに支援してくれる人にも出会い、今のかたちになりました。
明太子メーカーは、韓国で製造して日本で販売するということをよく行なっています。しかし、それとは逆に韓国をマーケットとして見ている企業は意外と少ない。日本で製造して日本の付加価値を付けて売るということができないか、という問題意識は持っていました。
挑戦が生む
イノベーション
―日本人の発想と異なる部分もあるのでは。
石橋 最初は海外向けの商品開発ではなく、とにかく「つくったものを売りに行く」というような発想でした。しかし、こんにゃくを知らない欧米人に食べさせるには、発想の転換が必要なことに気づきました。こういった発想の転換やイノベーションは、海外進出しなければおそらくなかったでしょう。
一部の欧米人の方は、こんにゃくが苦手だと言います。それは、こんにゃくの食感や臭い、色などによるもののようです。知らないものを食べてもらうのは非常に抵抗があるでしょうから、マーケットに合わせたものをつくって売ることにしました。開発にあたっては海外経験のあるシェフをコーディネーターに迎え、まず色を赤、緑、黄色になるようにしました。後で聞いたところこれは“洋食の3原色”で、お皿のなかにその3色が入っていると非常においしく見えるそうです。こんにゃくで麺もつくりましたが、これについても長さや食感、臭いといったような問題を解決しつつ、自分の商品の特色を出していくことが重要でした。
中小企業の場合は、製造現場とマーケティングと営業がすべて一緒で、分析するということがなかなかできません。海外に行って感じたのは、海外進出すると、これらをまとめてやるくらいの効果があるのではないでしょうか。
―強い商品の場合は後発組への対応も必要では。
石橋 今、手作りこんにゃくとは別に「こんにゃく麺」を年間20万食ほどつくっていますが、約8割が海外向けです。日本の場合は「こんにゃく」という固定概念が強く、新たなこんにゃくに注目するということがありませんでした。私たちがつくったこんにゃく麺は、外から逆輸入というかたちです。今は、徐々に国内でも増えてくるようになりました。
今後、似たような商品をつくるメーカーは出てくると思います。だからこそ、いっそうの技術の構築や差別化を図っていき、メーカーとして切磋琢磨するべきだと思います。ですから、特許を取得し、守るという戦略はとっていません。
高橋 弊社で製造を行なっている「YUZUSCO」は、「液状ゆず胡椒」というかたちのものを初めて商品化したのですが、製法に関してとくに特許を取ろうとは考えていませんでした。というのも、私たちのような中小企業が新しい形態の商品を単独で展開しても、認知度は上がらず、マーケットの形成にまでは至りません。そういった意味では、大手企業も参入してきたことで、「液状ゆず胡椒」のマーケットが形成されたのではないかと思います。
先ほどの日本食の事情に通じてくるのですが、昔は現地の韓国人や中国人がつくったような日式レストランが多く、いわゆる“日本食もどき”のレストランや日本食が非常に多かったです。しかし、ここ最近はどこに行っても、ちゃんとした日本食のお店や日本食があります。日本にある店、日本の味付けとほぼ同じです。これは、日本人が進出しているのと同時に、海外の方が日本食の本質を求め始めているのではないかと思います。刺身・天ぷら以外にも「日本食にはこんな良いものがある」と、日本食の奥の深さを皆が感じ始めているような気がします。つまり、海外で展開していくにあたっては、そこに日本食の本質的なものや特徴があるかどうかが、今後非常に重要だと思います。
こんにゃくは日本食の“ヘルシー”という特徴を、味噌や醤油は日本食の“発酵技術”を、熟成されたものは日本食の“旨み文化”を求められていると思います。
石橋 現在、海外の日本食レストランには4つのパターンがあると思います。①「日本人オーナーがいて、日本人のシェフが日本食をつくる」、②「外国人オーナーがいて、日本人のシェフが作っている」、③「外国人のオーナーがいて、外国人のシェフが作る」、④「華僑のオーナーがいて、華僑のシェフがいる」。今までは①、②が非常に多かったです。
しかし、現在、世界の日本食をリードしているのは③と④です。③、④は、「どうすればもっと利益が出るか」「どうすれば他社と差別化できるか」というようなことを常に考えています。そして、日本食の創作料理を出すのです。そうなってくると、我々もこんにゃくをこんにゃくとして提案するだけでなく、こんにゃくの性質を持ちつつも、創作をしやすいような素材として提供していくことが大切です。
安易な進出は
危険をはらむ
―勇気を持って進出すれば成功できますか。
石橋 弊社は、大牟田という本当に田舎な場所から、福岡や大阪などに販売しています。初めは、誰も石橋屋のこんにゃくを知りませんでした。こんにゃくは群馬県が名産ですから、大牟田からこんにゃくを売るのは、違う地域から博多に明太子を売りに来るようなものです。圧倒的に何かが違わなければなりません。私は、「お客さんが美味しい」と思うのはもちろん、通常の商品と比べて差別化できるかという部分を徹底的に意識して、モノづくりを行なっているつもりです。
今、行政が「積極的に海外進出しましょう」と、いかにも海外展開すれば「すぐに儲かる」ような感じで言います。しかし、私の経験では、海外展開をしてすぐ利益が出るということはありません。国内でしっかり利益を出したうえで、「じゃあ、機械に設備投資をするのか」「人に投資するのか」「今年は海外にいくら設備投資するのか」―というくらいの気持ちで、初めのうちは海外で10万円を売るのに40万円かけて、年に3、4回足を運んで、そういったことを5年くらい続けていたら、何となく見えてきたみたいなかたちです。
波多江 たしかに、「日本が儲からないから海外へ」というのは無理ですね。一方で大きな市場であるのも事実。アジアも人口的には魅力的なマーケットだと思いますし、個人的には「ハラール」に売りたいと思っています。イスラム圏は40億人ですから、ハラールマーケットは大きいですよね。
石橋 私は、インドなどベジタリアンのマーケットを狙っています。日本人が思っている以上に宗教的な食べ物の規制はありますから、そういった情報提供―「この成分を抜いた商品をつくりましょう」といったような情報があれば、ありがたいなと思います。
波多江 ちょっと前のヨーロッパのトレンドは「ゆず」でしたね。ヨーロッパの三ツ星レストランのシェフが、「YUZUSCO」を大絶賛していましたよ。
高橋 ゆずが収穫されて流通している国は、日本と韓国ぐらいです。ゆずの何が良いかというと、レモンとライムとは違ったフレッシュさがあると海外の方はよく言われます。海外のシェフの間では、「ゆず」はそのまま言葉になっているくらい、素材としての評価は高いです。そのため、ゆずを使った加工品等は非常に興味を持ってくれます。
● ● ●
―多様な地域に進出されていますね。
高橋 国数で言えば、10カ国ですね。具体的には、アメリカ、フランス、イギリス、香港、カナダ、UAE、マレーシア、シンガポール、インドネシア、ブラジルです。輸出は、弊社の売上の5~6%くらいでしょうか。やはり、コンテナ1本くらいを持てるようにならないと、1つの事業として認識していただけないのかもしれません。
石橋 弊社は15~16カ国に出しています。今、高橋さんがおっしゃった国に加えて、ニュージーランド、スイス、オランダなど最近はヨーロッパが増えました。発注が頻繁にある国で考えると、11?12カ国くらいですね。12?15%くらいが海外による売上です。今回、フランスで直接貿易も行ないました。
波多江 弊社では当初、韓国と香港、台湾ということで考えていました。しかし、人的資源が限られていますから、全部やろうとすると中途半端になってしまいます。そのため、まずは韓国1カ国に絞ろうということになりました。香港や台湾は、撤退というわけではありませんが、あまり積極的には行なわないということにしています。今は韓国人のスタッフを入れ、まずは韓国に集中しようと思っています。
―売り方のコツみたいなものはありますか。
高橋 単にスーパーの棚に並べてもなかなか売れませんし、継続しないことが多々あります。1つのやり方としては、どこの国にも影響力のあるお店があったり、発信力のある人がいたりしますので、そこからスタートするのもいいかもしれません。それを見たお店や人から、「ウチでも取り扱わせてくれ」となります。面白いもので、一般的にアジアでの情報拠点の頂点がホテルで、ヨーロッパの場合は三ツ星レストランと言われています。
石橋 JETROさんなど、国がやるヘルシー料理のテストマーケットなどがあります。初めはそういったもので、商品を一部のホテルで使ってもらい、半年~1年後ぐらいからジワジワ効いてくるというか―。フランスも、最初はフランス大使館でデモンストレーションを行なったりしていますので、そういったものが少し遅ればせながら来るものなのではないかな、と思っています。
● ● ●
―地元の地域との関わりはどうされていますか。
石橋 私の場合、地元抜きでの商売ですね。「どこに置いてあるのですか?」というくらい、地元に商品は置いていません。中小企業にとって、土地や人件費、経費などが少ない田舎でつくって都会で売るというのは、ある意味、理想的な商売のやり方かもしれません。売り先は博多だろうがNYだろうが、売る苦労は一緒です。マーケティングを行なって知らない人に売る、という手法ですからね。私たちは、ものづくりの会社としては自信というか自負というか、そういったものを大切にしていきたいなと思いながら、相変わらず田舎の隠れたところでやっています。
高橋 会社として地元の方を雇用するとかといった、地元に対する意識はあります。加えて、柳川は観光地です。そのため、海外事業をインバウンドにつなげていければ、という気持ちはあります。すぐには難しいでしょうが、「その商品がつくられた土地に行ってみようか」と言われるくらいのブランディングができれば、と思います。
波多江 弊社では「辛子明太子」という博多を代表するお土産をつくっていますので、根の部分では「博多・九州・福岡」という意識はあります。将来的には韓国にも法人をつくりたいのですが、根幹は福岡に残しておきたいです。地元の皆様に愛されるような会社でありたい、と思っています。たとえが大きすぎるかもしれませんが、ワインが好きな人がフランスにワインを飲みに行くように、日本食好きな人が「日本に食事をしに行きたいな」と、世界中から九州に集まってくるようなかたちになればと思います。
―将来的には海外拠点での生産も視野に入りますか。
石橋 自分の商品を知ってもらうということであれば、「Made in JAPAN」で十分だと思います。しかし、ビジネスとして広めていきたいとなれば、やはり価格の壁がありますから、物流拠点、生産拠点を設けないと世界に広がって行かないでしょう。
波多江 日本は非常に規制が多いです。弊社の商品はEUではまったくダメです。日本の水産加工品と海外の水産加工品の基準が、まったく合わないためです。韓国からだとFTAで関税はなくなり、基準もすべて向こうの基準に合わせますから、EUは可能性があるかもしれません。
日本は、外から入るのも、内から出ていくのも難しいと思います。そのため、最終的には現地生産できればと思っています。
高橋 「日本円で、1個あたりあと100?200円安かったら入れられるのに」という話は、ときどきありました。しかし日本でつくっていると、これ以上価格を下げることはできません。
ここ2年くらいで、海外の生産拠点を立ち上げようと考えています。日本でつくったものは日本で販売し、海外、アジアでつくったものは日本以外の国々へ販売したいと思っています。また、日本でつくられた「Made in JAPAN」品、海外で日本の技術によってつくられた「Made by JAPAN」品の選択ができるようにしたいとも思っています。品質については、“イコール”ではないですが、“ニアリーイコール”くらいまでは持って行きたいな、と。具体的なところでは、まず入り口としてタイで生産委託を行ない、そのうち独資で会社を立ち上げて、工場をつくれたらと考えています。
石橋 私はやはり、「こんにゃく」という文化をどうにか広げたいと思っています。しかし、やはり「こんにゃくが現状のままのかたちで広がるか」と言われると、疑問です。大学と共同研究などを行なっておりますが、こんにゃくの違う可能性も見えてきました。パウダーにしたりジェルにしたり、ウェルネスという部分では可能性はあると思っています。6、7年前から私のなかで、「こんにゃくを売ろう」というよりも「こんにゃくを知ってもらおう」「食べてもらおう」というような考え方に変わりました。そういう部分をもっと煮詰めて、次なるビジネス展開につなげていければ、と考えています。
私は1970年代に育ち、憧れがありますから、アメリカに行きたいですね。「儲かる」「儲からない」とは別に、アメリカで受け入れられたいです。こんにゃくは、英語で「konjak」といいます。ちょうど10年前くらいにアメリカでこんにゃくを一生懸命売っているときは、「Mr.konjak」というニックネームで呼ばれていました。いつか全米の人からそう呼ばれるのが夢です。
日本にもある
カントリーリスク
―最後に、海外進出を検討している中小企業のみなさんに一言お願いします。
波多江 難しいところだと思います。アプローチをかけて、強い商品があればすぐ話は決まるのかもしれません。しかし経験として、3年経ってようやく具体的に話が決まるようになってきました。資本の少ない中小企業が競争の激しい海外に出るというのは、人的資本も少なく、非常に難しいと思います。海外に出ても、縮小していく日本にとどまっても、どちらも難しいです。リスクというのは必ず付いてまわりますから、経営者としてどちらの方向でやっていくかということになります。
ただ私は、中小企業の方には、ぜひ海外にチャレンジしてもらいたいなと考えています。たしかに簡単ではありませんが、やることで視野も広がりますし、私自身もそうでしたが、国内のことだけを見ているとどうしても視線は後ろ向きになってしまいます。
海外に目を向ければ、可能性を感じることはできますし、私たちの仕事ですと、中小企業こそ大きく伸びていくこともできるのではないかと思います。今後、人口はグッと減り、激しい価格競争になると思います。巨大資本の大手が、海外でつくったものを次々に投入してきたら、国内の中小企業はどうすることもできない事態になりかねません。ですから、海外でも商売できるような状態にしておくことも大事ではないかなと思います。
石橋 海外の展示会などで売り込みに行くと、何となく“創業者魂”が復活するような気がします。やはり、日本では絶対にやらない飛び込み営業をしたり、1日売場に立って「お客さまをあと1人でも―」などといった経験ができます。やはり、売れる売れないを別にして、経営者たる者は自己啓発のためにも行くべきです。それも、海外視察ではなく、同じ展示会に行くにしても、出展者として出ることです。言葉がわからなくても、身振り手振りで出店することです。やはり、先代がやってきた創業者魂を起こさせるというのは、経営者としての成長にもつながると思います。
高橋 海外に進出するのは、入口は決して難しくはないと思います。たとえば、九州の会社が「東京に進出したい、商品を納めたい」ということであれば、東京に行って展示会に出たりすると思います。その感覚で良いのではないでしょうか。
国内の商社を通じてやれば、基本的には国内の取引です。結果的に、海外に行くというだけです。そう考えれば、できないことはありません。そのPRの場はいろいろなところがありますから、そこも利用していけばいいと思います。たとえばこちらの2社は助成金をもらっていらっしゃいますし、そういったものを利用することもできます。入口としては、ハードルは全然高くないと思います。
(文・構成:柚木 聡美)
-
(有)石橋屋 代表取締役 石橋 渉 氏
1957年福岡県大牟田市生まれ。高校卒業後、家業であるこんにゃく製造業「石橋商店」に入社。89年に先代からの店を引き継ぎ、92年に有限会社化。4代目代表を務める。 -
(株)高橋商店 代表取締役社長 高橋 努武 氏
1967年2月生まれ。アメリカの大学院(MBA)を卒業後、大手水産会社で勤務。その後、同社に入社。2000年7月より、同社代表取締役社長に就任。 -
(株)島本食品 取締役副社長 波多江 正剛 氏
1972年7月生まれ。明太子販売部門の同社の取締役副社長のほか、原卵問屋の㈱はたえの取締役副社長も務める。九州大学経済学部産業マネジメント専攻(MBA)卒業。