【第2回 粉飾】
―― お二人の共通点は、規模は違えど組織に所属したサラリーマンであったことです。さらに詳しく組織のあり方についてお話をおうかがいしたい。
石川 私の社会人スタートは、売上高2兆円規模の流通大手企業でした。ある程度できあがった組織のことは理解しております。一方、二百数十億円規模の組織に所属して、どのようにマネジメントして会社運営の実務を行なうのか、自らも含めて理解し実践できた人物はいなかったのだと回想できます。もう少し具体的に話すと、私の力不足もあり、古参の幹部に脱皮も代謝も促すことができなかったということです。
野口 今現在はどこに所属しているのですか。DKホールディングスと同業ですか。
石川 創業者オーナーが破綻後(09年2月)に、不動産売買業を中核にした新会社を立ち上げました。縁があり、再びその下で仕事を行っております。まだ6~7人の会社ですが、上場まで発展させるという意欲はあります。
野口 事業が失敗する大きな原因のひとつに、顧客目線から大きく外れてしまうことがあげられます。会社の収益ばかりに固執してしまったことで、崩壊の一途を辿ってしまったのではないかと思われますが、石川さんはいかがでしょう。
石川 DKホールディングスの顧客は、300名おりました。ビルを購入していただいたオーナーです。引きとめて、70%の顧客が新会社(DKホールディングスの売却先企業)へ残っていただけました。ですから、顧客目線からの乖離は、破綻の原因としては当たりません。黒田はオーナーとの信頼関係を構築しておりました。個人オーナーへの販売は、2~3億円のビルが中心で100億円の売上高まではその事業で作り上げてきました。だが上場後は、前述した不動産ファンドへビジネスを移行し、その頃から、ほころびが出始めました。上場したことで売上高は、株価の関係上、やむなく落とせないから、扱う数字の大きいビジネスへ進出していきました。そのような環境のなか、DKホールディングスの社員も「われわれは、上場企業ですごい組織に所属しているのだ」と、感覚が麻痺してしまったと思います。
野口 そうですね。それは上場した社長が陥りやすい事象でもありますね。上場したらアナリストの顔色をうかがわねばなりません。たとえば1年後は10%、5年後は30%の売上高アップという"アドバルーン"を掲げなければ、アナリストに自社の株を高く評価してもらえないのです。だからどうしても無理な数字を目標に掲げてしまいます。社員も無理を強いて、現実とかけ離れた数字を作ってしまう。粉飾のはじまりです。それらを積み重ねてしまって粉飾を続けて、最終的には空虚な企業体となり、崩壊してしまうのです。
―― お互い上場会社でありますが、1兆円と260億円と約50倍の差があります。粉飾の話ですが、仮に山水建設が所有する4,000億円の土地が、2,000億円の価値と評価され、評価損2,000億円計上されたといたします。山水建設の規模で、財務的に2,000億円位なら大きなダメージになりません。DKホールディングスの場合であったら、数億円程度の評価損でも存亡の危機に立たされる恐れがある。だから、社員が不動産の評価を操作しようとした。基盤の差ですね。
石川 そうですね。基盤の差ですね。粉飾は絶対やってはいけないですね。おっしゃる通り販売用不動産の評価に関しては、監査法人より操作を疑われました。(注:実際には当初数値が認められた)ただ、架空の売上高の数値を列挙するなどの粉飾はDKホールディングスにはなかったので、民事再生で済んだのです。大掛かりな粉飾をしていたら、大抵は破産です。
野口 損金を出して赤字になる─たとえば、それまで500億円の営業利益を計上していたのが、評価損によって100億円の赤字となってしまうのです。
石川 これらは監査法人が入って、初めて呈することもあります。
【文:河原 清明】
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