2024年04月28日( 日 )

BIM推進へ、意匠・構造・設備・積算など8団体が一丸(前)

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建築倶楽部BIM推進協議会
会長 西 洋一 氏

(一社)福岡県建築士事務所協会 副会長
(株)Gデザインアソシエイツ 代表取締役所長

建築倶楽部BIM推進協議会 会長 西洋一 氏

全国的にも稀有な、業界団体横断の取り組み

 ──建築倶楽部BIM推進協議会の発足からこれまでについて、お聞かせください。

 西 建築倶楽部BIM推進協議会(以下、推進協議会)はBIMの推進に関わる方策について検討を行うことを目的として、2020年11月に設立総会を開催して発足したものです。初代会長は、(一社)福岡県建築士事務所協会の岩本茂美会長((株)傳設計・代表取締役)が務め、私は岩本会長から後継に指名されて22年12月に会長に就任しました。

 推進協議会には、福岡県内に事務局を置いている8つの団体()が参加しており、BIM推進に関するシステム上の課題の整理や解決に向けての提案・調整を行っていく「システム部会」のほか、BIM推進の技術的な取りまとめや技術資料の発信、講習会・セミナーの開催などを行う「技術部会」、そしてBIMによる設計に精通している建築事務所やJV企業からのBIMのノウハウについての研究および実務実行を行う「実務部会」の3つの部会に分かれて、それぞれ活動を行っています。そして毎年開催する総会で各部会の活動報告や課題などの情報共有を行うとともに、BIM普及推進に向けた次なる活動計画の策定のための意見交換などを行っています。

 推進協議会に参加している8団体は、いずれも建築設計に関連する業界団体ではあるのですが、「総括・意匠」「構造」「設備」「積算」「学術・研究」「発注支援」など、それぞれが異なる専門性を有しています。このように、建築設計の分野の異なる団体が垣根を越えて一緒にやっているというのは、全国的にも珍しいケースのようです。

※建築倶楽部BIM推進協議会 参加8団体
(公社)福岡県建築士会 福岡地域会/(一社)福岡県建築士事務所協会/(公社)日本建築家協会 九州支部 福岡地域会/(一社)日本建築構造技術者協会 九州支部/(一社)福岡県設備設計事務所協会/(公社)日本建築積算協会 九州支部/日本建築学会九州支部 福岡支所/(一社)日本コンストラクション・マネジメント協会 九州支部 ^

コスト&互換性&困難さ 普及を阻む高いハードル

 ──福岡の建築設計業界におけるBIM普及の現状については、いかがですか。

 西 福岡は全国的に見てもかなりBIMが進んでいるほうだとは言われているのですが、それでも残念ながら、普及率はそれほど高くありません。たとえば推進協議会の事務局である福岡県建築士事務所協会の会員企業のなかでも、BIMを導入して積極的に活用されているところは、おそらく30社くらいではないでしょうか。この30社をまずは100社までもっていこうという目標を掲げてはいますが、なかなか一朝一夕には進んでいかないのが現状です。

 ──BIMの普及が進んでいかない要因とは何でしょうか。

 西 やはり、導入に際してのハードルが非常に高いことだと思います。まず何といっても、BIMソフトのライセンス料が非常に高額であるというコスト面の問題があり、小規模事務所ほど導入のための投資を躊躇してしまうという現状があります。

 また、普及している主なBIMソフトは「Revit(レヴィット)」(米・オートデスク社)、「ArchiCAD(アーキキャド)」(ハンガリー・グラフィソフト社)、「Vectorworks(ベクターワークス)」(米・ベクターワークス社)、「GLOOBE(グローブ)」(日本・福井コンピュータアーキテクト(株))と4つもあり、それぞれ使い勝手や特性、機能などが違っています。どれが優れているというのは一概にはいえませんが、残念ながらソフト同士の互換性が現状はありません。そのため、同じBIMソフトを導入していないとデータのやり取りや連携ができません。異なる環境下でも同じように表示できる「PDF」のように、中立でオープンなCADデータモデルのファイル形式である「IFC(Industry Foundation Classes)」の研究が国交省主導などで進んでくることで互換性が生まれることへの期待はありますが、まだまだの状況です。

 さらに大きな課題は、BIMはソフトを導入すれば、すぐに実務でバリバリ使えるような類のものではなく、習熟するのにかなりの時間の勉強を必要とする点です。通常の設計業務を行いながら、その片手間でBIMの勉強を行うというのは難しいでしょう。大手であれば、通常の設計を行うチームとBIMでの設計を学ぶチームとに分けて、うまく回していくことも可能かもしれませんが、人員が限られる小規模事務所では目先の業務をこなして日銭を稼ぐことに精一杯で、習熟のための時間を割くことができません。このあたりは、先ほどのコスト面の課題ともリンクしてくる問題ですね。

 一方で、若い方は学校で設計を学ぶ際に、最初からBIMでというケースも増えているようです。ですが、彼らが卒業後にBIMの設計で即戦力になるかというと、なかなか難しいのが現状で、というのも細かい納まりなどの実務的な知識や感覚がないと、机上の空論のBIMの知識だけですぐに実施設計を行っていくのは無理です。

(つづく)

【坂田 憲治】


<プロフィール>
西 洋一
(にし・よういち)
1958年11月、宮崎市(旧・佐土原町)出身。九州大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了を経て、84年4月に(株)メイ建築研究所に入社。89年3月に(株)醇建築まちづくり研究所を設立し、取締役副所長に就任。2005年6月に設計部門を分社化し、(株)醇デザインアソシエイツ(06年1月に(株)Gデザインアソシエイツに商号変更)を設立して代表取締役所長に就任。16年5月に(一社)福岡県建築士事務所協会副会長に就任。22年12月に建築倶楽部BIM推進協議会会長に就任した。

(後)

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