2024年04月28日( 日 )

福岡城の天守再現を考える(2)国史跡として福岡城天守の「復元」は可能か?

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 福岡城の天守の『復元』をめぐる議論がにわかに熱を帯び始めている。歴史的、観光的などさまざまな立場から意見があると思われるが、ここでは福岡城の天守に関わる議論を、市民が自らの意思で自分たちの街の景観を決める「まちづくり」の議論として受け止め、福岡城天守の再現について考えたい。

 現在、福岡城の『復元』が福岡市の事業計画のもとで進められている。ところが、この計画では天守は復元対象に含まれていない。なぜ天守は復元対象ではないのか。計画内容を簡単に見てみよう。

国史跡「福岡城跡」の整備計画

 福岡城の復元を考えるにあたって、第一の前提となるのは、福岡城が国史跡であるという事実だ。1957年、「福岡城跡」は国史跡として指定を受けた。さらに2004年には史跡内の一部区域が「鴻臚館跡」として国史跡の追加指定を受けた。国史跡になったということは、復元を含めた史跡の現状変更を行う場合に、文化庁(国)の許可が必要ということであり、その復元等整備に関しては国の基準に従うということである。

 福岡市は、12年に策定された『第9次福岡市基本計画』における施策方針のもとに、14年、「国史跡福岡城跡整備基本計画」(以下、基本計画)を策定した。

福岡城跡の史跡指定範囲と整備ゾーン、出典:国史跡福岡城跡整備基本計画 2014
福岡城跡の史跡指定範囲と整備ゾーン
出典:国史跡福岡城跡整備基本計画 2014

 基本計画では、史跡内を4つのゾーンに分けて、整備方針を設定している。

本丸・二ノ丸ゾーン
 福岡城の中枢部分にあたり、城郭をかたちづくる石垣が大変良好な状態で残されている。建造物としても、江戸時代から現存する多聞櫓(国指定重要文化財)や、現在、石垣の解体修理中である祈念櫓(県指定有形文化財)があり、福岡城時代の復元可能性が高いエリアに設定されている。本稿で話題とする天守もこのエリアに含まれる。

門・堀・土塁ゾーン
 上記ゾーンとならんで福岡城建造物の復元対象と位置付けられる。福岡城の外周にあたり、堀や土塁の遺構が残されるとともに(伝)潮見櫓、下之橋御門等の復元建造物があり、北西端にある潮見櫓が現在復元中である。外部環境との接続エリアであることから、城郭景観の外部アピール力が高いエリアに設定される。

鴻臚館ゾーン
 福岡城跡のなかでまったく別時代の史跡として二重指定を受けた区画であり、今日に至る都市としての福岡・博多の歴史的な由来を知るうえで重要なエリアとして設定される。

三ノ丸ゾーン
 上記の各歴史的ゾーンへの接続部分にあたり、陸上競技場、牡丹・芍薬園、多目的広場、駐車場などがある。歴史的な景観の保全に留意しながら、市民活用を考慮した施設等の設置を行うエリアに設定される。

天守復元は「極めて困難」の判断

 基本計画によると期間は15年間、概要では事業費として70億円を設定し、石垣の修理や、歴史的建造物の復元を計画している。主に復元対象となるのは「本丸・二ノ丸ゾーン」と「門・堀・土塁ゾーン」内の歴史的構造物で、先に復元中として挙げたものの、ほかに復元対象とされているのは、本丸南の武具櫓、裏御門、太鼓櫓、扇坂などで、将来的には、花見櫓、表御門、本丸御殿も挙がっている。

 しかし、天守は挙げられていない。基本計画で天守は「復元が極めて困難」と判断されているためだ。

 福岡城については文献史料、絵図、古写真などが多数残されており、それらを基にして櫓や門などの復元が可能であると考えられている。14年に福岡市が策定した「国史跡福岡城跡整備基本計画」(基本計画)は、復元根拠となる資料について検討したうえで、添付資料「復元を可能とする資料の有無について」において、各建造物に関する資料の存否を明らかにしている。そのうえで天守は「復元が極めて困難」と分類されている。

出典:国史跡福岡城跡整備基本計画
出典:国史跡福岡城跡整備基本計画

 天守については文書も絵図も不足している。福岡城を描いた最古の絵図『福博惣絵図』(1646年)には天守は描かれていない。ただし、他所の文献史料で福岡城が当初は存在していたことをうかがわせる記述も見られることから、一度も建てられたことがなかったと確定しているわけではない。

福博惣絵図より抜粋、fukuokajyo.comより
福博惣絵図(福岡市博物館所蔵)より抜粋、fukuokajyo.comより

文化庁が定める「復元」と「復元的整備」

 冒頭で述べた通り、国の史跡である福岡城を整備するには、国の許可が必要だ。文化庁(国)は、史跡の上に歴史的構造物を再現する方法として、主に2つの方法を想定している。

 復元:史跡などにおける歴史的建造物の復元に関する基準に基づき、往時の規模・構造・形式などを忠実に再現する行為

 復元的整備:史跡などにおける歴史的建造物の復元に関する基準に基づき、利活用の観点から、外観を忠実に再現しつつ、内部の意匠・構造を一部変更して再現する行為

 では、福岡城の天守は、上記のいずれかに該当するだろうか。

「復元」とは、資料に基づいて厳密・忠実に再現すること

 「史跡等における歴史的建造物の復元等に関する基準」(19年4月)では、復元の技術的基準の④として、「復元する歴史的建造物が遺跡の位置・規模・構造・形式等について十分な根拠」を持つことが必要とされ、具体的には「歴史的建造物の指図・絵画・写真・模型・記録等で、精度が高く良質の資料」が求められている。

 つまり、歴史的建造物がたしかに存在していた、というだけでなく、どのような建物であったかを示す十分な根拠がある場合に、初めて復元が可能であるということになっている。

 先述の通り、福岡城の天守には一切資料が存在しないことから、文化庁が定める「復元」として天守を再現することはできない。

「復元的整備」とは実在が前提

 「復元的整備」は、史跡の利活用の観点から、20年4月に新たに設けられた基準で、「復元」よりも緩い基準になっている。

 基準によると復元的整備とは、「今は失われて原位置に存在しない」ものについて、「往時の歴史的建造物の規模、材料、内部・外部の意匠・構造等の一部について、学術的な調査を尽くしても史資料が十分に揃わない場合に、それらを多角的に検証して再現する」となっている。要するに、過去には実在したことが間違いないものの、厳密に復元するための先述の技術的基準④が満たせない場合の整備方法を示している。

 福岡城の天守については、先述の通り、実在したかもしれないことをうかがわせる記述が他所の古文書にあるものの、伝聞についての記述などであり、実在したかどうかは明確ではない。よって文化庁が定めた「復元的整備」にも当てはめることは現状では厳しい。

文化庁の基準が福岡城天守再現の基準のすべてか?

 以上、国の基準によると、福岡城の天守は、復元はもとより、復元に準ずる復元的整備も実施することは難しいということになる。

 だが、これはあくまでも文化財保護法と文化庁の基準の元での歴史的建造物の復元についての話である。

 その基準だけに基づいて、我々は福岡城天守の再現について考えるべきなのだろうか?

(つづく)

【寺村 朋輝】

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