2024年04月28日( 日 )

世界と日本の今後の人口は?(前)

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 日本ビジネスインテリジェンス協会(BIS、中川十郎会長)より赤阪清隆元国連事務次長・元国連大使の人口に関する論考を提供していただいたので共有する。

日本 人口減少 イメージ    日本の人口が減っているので、心配する向きも多いです。そこで人口問題を今回の「話のタネ」に取り上げ、素朴な疑問をぶつけ、関連の最近のニュースなどを拾ってみたいと思います。

 まず、世界の人口ですが、「今世界の全人口は?」と大学での講義の際に学生に問いかけても、首をかしげるか、スマホで探そうとする人が多いです。世界人口は、2022年11月に80億人を上回り、現在では81億人に達していると思われます。2023年にインドの人口が中国を抜いて世界第一位になりました。2023年の両国の人口は、ともに14億2,000万人台ですが、インドの人口が増え続けているのに対し、中国は減少に転じています。3位がアメリカ(3億4,000万人)、4位がインドネシア(2億8,000万人)です。日本は、1億2,330万人で、世界のランキングでは12位でした。

 世界の人口は、1950年の25億人から、1960年に30億人、1975年に40億人、1987年には50億人を突破し、2011年には70億人に達しました。70億人に達したときは、私は国連におりましたので、大きなニュースとなったのを覚えています。国連人口基金がアメリカの大学生を動員して、当時はまだ目新しかったフェイスブックなどのSNSを使い大キャンペーンを張ったものですから、ちょっとした騒ぎになりました。それからわずか10年余りで、世界人口は80億人を超えたのですが、そのときはあまり大きなニュースにはならなかった気がします。国連の推計では、今世紀末までに100億人を超えると予想されていますので、世界人口は、過去150年間で4倍に膨れ上がることになります。さて、この先どうなるのでしょうか?

 人口の話といえば、英国経済学者マルサスの「人口論」。1798年に出版された同書の翻訳版を図書館で借りて読み返してみました。彼は2つの前提を立てたのですね。1つは、食糧は人間の生存に必要であること。2つ目は、男女間の性欲は必然であり、将来も変わらないと思われること。私も、わが身を振り返ってみて、この2つの前提は間違ってないと確信するのですが、いや、間違っているかもしれません。というのも、2014年1月14日付のニッポンドットコムの記事に、「既婚者の68.2%がセックスレス傾向――全国4,000人調査:それでも夫婦仲は悪くない?」というのが出ています。食欲は別にしても、男女間の性欲は必然というマルサス説は、フランス人の間では今なおその通りだとしても、現在の日本人の間ではもはや必ずしも正しくないのかもしれません。

 閑話休題。マルサスは、彼の前提が正しければ、人口は、制限されなければ、等比級数的に増大する(2倍、4倍、8倍、16倍…と)が、食糧は、等差級数的にしか増大しない(2倍、3倍、4倍、5倍…と)との命題を立てました。そうすると、今年は、『人口論』が発表されてから226年目ですが、彼は、225年で、人口対食糧の比率は512対10になると計算しました。その結果、飢餓や貧困が増加するが、この不均衡からどうすれば逃れられるのか?マルサスは「すべての生命あるものを支配しているこの法則のおもみから、人間がのがれることができる道を私は知らない」と、無責任というか、投げやりな悲観論を示しました。

 マルサスの生きた1800年ごろの世界の人口は、およそ10億人と推測されています。現在の世界の人口は約80億人ですので、当時に比べて約8倍になっていますね。他方、現在の食糧生産量は、FAO(国連食糧農業機関)によれば、世界の人口を賄うに足りることができると見てよいようです。ただし、現実には、需要と供給のバランスに問題があり、不平等な分配やアクセス、食糧ロス、紛争や災害の影響などで、まだまだ世界には飢餓に苦しむ人たちがたくさんいる状況です。ガザ地区のパレスチナ人や子どもにも飢餓の危険が迫っているといいますが、これはまったくの人災ですね。とすると、現実には、人口は格段に増加したものの、食糧も大きく増加して、二百数十年のマルサスの悲観的な予測は、幸いにも現実には生じてこなかったといえるでしょう。

 しかし、この先も人口が増え続けるならば、食糧の消費量も増大し、世界各地で食糧危機の心配が生じてこないでしょうか?人口増にともなう地球資源の枯渇を心配する向きも少なくありません。その観点から、石毛直道国立民族学博物館元館長は、「現在進行中の『少子高齢化』は、人類という種の未来にプラス効果をもたらす事柄だといえよう」と冷めた見方をされていますね。人類永続のためには、モノの豊かさから心の豊かさを楽しむことへ、生き方を切り替えることが必要である、とも主張されています(『アステイオン』099号、2023年)。

 それでは、世界の人口は、今後どこまで伸び続けるのでしょうか?驚くなかれ、世界の人口は、そう遠くない時期にピークを迎え、その後は減少し、ひょっとして人類が滅亡するような事態も危惧しなくてはならなくなるという推計もあるのです。これは、占い師の予言ではなく、れっきとした国連の推計の1つです。それによると、世界人口は、2050年を過ぎたあたりから再生産水準を下回るようになり、2086年に104億3,000万人でピークを迎え、それからは減少が始まるというのです。とくに、欧州、アジアおよびラテンアメリカの諸国は、少子高齢化と人口減少の危機に直面します。アフリカの人口は現在の3倍の34億人まで増加しますが、やがて2100年ごろには均衡状態に近づくだろうと推計されています。

(つづく)

(後)

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