変わる食品流通 各社の戦略

2極化する食品市場
新旧交代も進む

2012年の九州流通企業の決算では、売上高首位にコスモス薬品がイオン九州を抜いて躍り出る。2位はトライアルカンパニーで、上位2社を新興低価格業態が占める。それは、食品流通における新旧勢力が交代したことを象徴する。とはいえ、総合スーパーや食品スーパーが流通の主役から滑り落ちたわけではない。「価格」と「質」の2極化時代を迎えたことを意味する。

九州首位にコスモス躍進

  コスモス薬品の2012年5月期決算の売上高は前期比13.0%増の2,681億円となる見込みで、イオン九州の2,491億4,600万円を抜きトップになる。2位は8.0%伸ばし約2,600億円となるトライアルで、順位は変わらないが、イオン九州を抜く。イオン九州は2社に抜かれ3位に落ちる。
  コスモス薬品は生鮮と惣菜を除く一般食品でも約1,350億円と九州では1位。トライアルは一般食品1,170億円、生鮮・惣菜320億円。イオン九州は食品全体でも1,090憶円だった。食品分野でも、流通の主役が新興低価格業態に移行したことを象徴する。
  流通業界の変化は目まぐるしい。マイカルや寿屋が相次いで破綻した01年当時、九州首位は同年2月期決算で2,416億円を売り上げた寿屋だった。以下、2位サンリブ、3位タイヨー、4位ナフコ、5位九州ジャスコで、現在のダイレックスはベスト10に入らない15位だった。
  01年当時の上位15社で現在存続しているのは9社にすぎない。寿屋、ニコニコ堂、マイカル九州、丸和は破綻し、サニー、丸和、九州西友は吸収合併された。ダイレックスはサンドラッグ傘下に入り、形式上旧サンクス・ジャパンは解散した。

EDLPで客の支持

  ディスカウントストア(DS)とドラッグストアがこれらに代わって台頭してきたのは、低価格がデフレ下で消費者の支持を集めたためだ。トライアル、コスモス薬品とも特売でなく、常時安いEDLP(毎日低価格)を標ぼう、大量出店で短期間に業績を急成長させた。
  コスモス薬品は医薬、化粧品、日用雑貨といったドラッグ商材にグロサリー・日配チルドを加えた生活必需品を売場面積500坪級の店舗で低価格で販売する独自の業態を開発、人口1?2万人の小商圏に大量出店していくビジネスモデルで既存業態をしのぐ高収益を実現した。
  トライアルは、米国ウォルマート・ストアーズが開発した、生鮮から日用雑貨、衣料、住関連を1フロアで展開するスーパーセンターを一早く導入することで成功を収めた。寿屋、オサダなど破綻企業の店舗跡に格安で出店できたことも急成長できた要因。同社がそれまであったオサダやMrMaxといった安売り屋と異なるのは、田川市に建設した大型物流センターを見ればわかる。総額約40億円を投じた同センターはITで武装し店舗に低コストで供給することを可能にした。

質重視の需要も増加

  食品流通は今後、どう変わっていくのか。
  低価格業態が急成長してきた背景には、デフレで家計所得が伸び悩み、低価格を求める需要が増大したことがある。
  一方で、少子高齢化の進行とともに、多少割高でも健康や安全を重視し、価格よりも「価値」を求める需要も台頭している。「価格」と「質」の2極化が始まったと言ってよい。
  後者の代表格、ハローデイはDSやドラッグストアほどの成長率はないものの、「高質路線」を掲げデフレ下で着実に業績を伸ばしてきた。原動力は、生鮮を中心とした商品力と独自の店づくり。DSやドラッグにはない、季節や祭事ごとの食材やメニューの提案にも力を入れている。
  鹿児島のタイヨーは、生産から販売まで自社で管理したプライベートブランド「優」や、化学調味料や合成保存料、合成着色料を使わない加工食品「美味安全」を開発している。健康や安全な食品を求める消費者の声が増えているのに対応した。業績は長期低迷していたが、地道な営業努力が実って前期は2期連続増収増益を達成した。
  コスモス薬品、トライアル、ダイレックス3社は大量出店で攻勢を一段と強化する。
  コンビニも青果を導入するなどして、客層を中高年に広げ食品市場で無視できない存在になってきた。
  業態間の垣根が低くなるなかで、今後は低価格指向でもない、かといって質重視でもない、どっちつかずの企業の業績が真っ先に悪くなっていくだろう。流通企業も2極化の時代を迎えた。