変わる食品流通 各社の戦略

“質”で九州最強
鮮度、品ぞろえで差異化

 ㈱ハローデイ

㈱ハローデイは、ディスカウントストアのルミエールとともに現在、九州流通業界の2強と言われる。ルミエールがコスト競争力で最強なのに対し、ハローデイは“質”で最強を誇る。従業員の創意工夫を引き出しながら、持ち前の商品力に磨きをかけ、低価格業態との競争を勝ち抜く戦略だ。

生鮮で強み発揮

ハローデイ

  飯塚市の住宅街にあるハローデイ九工大前店。1店平均年商17億円の同社店舗のなかでも、最大の稼ぎ頭だ。「飯塚市の上質客を総取りしている」と他社がうらやむ。
  6月初旬、平日の昼前。9台あるレジはフル稼働し、繁盛ぶりがわかる。なかでも賑わいの目立つのが、生鮮と焼き立てパン売場。焼き立てパン売場のレジは3?4人の客が並び、買ったパンを入口脇にあるイートインコーナーで食する主婦のグループも。
  主婦が品定めに余念のない鮮魚売場では、コダイ、アジ、サバといった通常の魚種に加えて、「関アジ」「関サバ」といった百貨店でも珍しいブランド魚も。同じアジでも、1匹売りから刺身用、盛り合わせの姿造りとバラエティーに富む。鮮度とアイテム数の多さが人気の秘訣だ。
  九工大前店など周辺地区担当の鮮魚バイヤーは、毎朝早くから飯塚市内にある魚市場に仕入れに行く。当たり前のように見えるが、大手スーパーでは大半が仕入れを仲卸に委託しているのが実情で、直接市場に出向くことは少ない。深夜払暁からの毎日のセリに参加するのは、サラリーマンバイヤーでは難しいからだ。
  直接自分の目で確認するので、鮮度の良い商品や旬の魚種が手に入り、思わぬ買い得品も調達できる。福岡都市圏店舗のように仕入れを仲卸に委託している場合でも、決して丸投げせず、バイヤーが指示を出して仕入れる。

損益分岐点は高い

  鮮度を維持するため、大手スーパーやディスカウントストアが導入しているアウトパック方式は採らない。原則として100%インストア加工で、惣菜の場合でも手作り感を重視するため、90%が店内調理。
  この方式だと、多くの人員を投入しなければならず、コストは高くつく。同社の生鮮・惣菜売場の人員は通常のアウトパック方式のスーパーに比べ2倍近いと言われる。固定費負担が増え、損益分岐点比率は高くなる。同社によると、同業他社が年商8?10億円で利益が出るのに対し、14?15億円売る必要があるという。
  出店も限られる。前期、子会社ボンラパスを含め5店出したのを除くと年平均2店にとどまってきたのは、生鮮要員の確保が難しく、技能者の育成に時間がかかるためだ。
  生鮮・惣菜が同社の競争力を支えていることは、売上比率の高さを見ればわかる。生鮮3品で41.6%、惣菜・ベーカーリーを合わせると49.3%。食品スーパー(SM)の平均より10%近く高く、全国的にもトップクラスと見られる。ちなみに、同社と同様、「質」を重視する㈱丸久は43.7%。
  SMの商品力を測る物差しとされる1人当たりの平均購入価額(客単価)は2,000円弱、購入個数は11個弱。購入個数が多く、単価が高ければ高いほど、売場にそれだけ魅力的な商品が多く、“ついで買い”を誘っていることを意味する。ちなみに、丸久は客単価1,658円、個数9.7個。
  焼き立てパン工房を導入した新型店舗では、SMが目標とする2,000円を超えているという。
  販売効率は高い。400坪平均の売場で年17億円を売り上げており、坪(3.3㎡)当たり売上高に換算すると425万円。九州のSMではトップ級を誇る。

物の量り売りコーナーのある井掘店
物の量り売りコーナーのある井掘店

独自の店づくり

  強い販売力を支えるもう1つの柱は、独自の店作り。加治敬通社長の自慢の1つは、同社にはどれ1つとして同じ売場の店舗がないことだ。チェーンストアは本来、店舗形態を標準化し、同一規格の店舗を大量出店するのが基本だが、同社はあえて店舗の自主性を尊重し、店ごとに独自の試みを取り入れている。他社との差異化を図ることもあるが、従業員に積極的に店舗運営に参加してもらい、モチベーションを高めるためだ。パート従業員の提案を店作りに生かしたケースも少なくない。たとえば、リンゴジャムをジャムのコーナーではなく、リンゴの横に陳列し新鮮さを演出することで、売上を伸ばしたケースもある。
  北九州市小倉北区の足原店はワインやビネガーの量り売りをするなどデパ地下風の店づくりが話題になり、今でも全国の同業者から見学が絶えない。
  黒崎店では、鮮魚売場に人工の滝を設けている。滝から水が流れ落ち、鮮度をアピールする仕掛けだ。
  昨年11月オープンした北九州市小倉北区井掘店は果物の量り売りを始めた。同店では「魚屋さんの惣菜」「肉屋さんの惣菜」など、惣菜だけで4つの売場を設けている。
  オープンキッチンやイートインコーナー、焼き立てパン工房など、同社が始めて他社が追随したケースも珍しくない。ベーカリーはSMに不可欠の商材になっている。
  と言っても、同社は決して高級スーパーではない。安売り競争とは一線を画すが、定期的に特売を実施し、高いという印象を植え付けないようにしている。コンセプトは、価値ある商品を価値通り販売する、高質スーパーの追求。そのためには、ハローデイのブランドに対する顧客の信頼性の確立が欠かせないと見る。