変わる食品流通 各社の戦略
ターゲットは『団塊の世代』
シニア層へシフトチェンジ
イオン㈱
団塊の世代が65歳を迎え、日本は世界でも類を見ない超高齢社会となった。医療の高度化などにより平均寿命は50年前と比較し、男女とも15歳以上伸びた。少子化も影響して、2030年には55歳以上の人口が50%を超えるとも言われている。イオン㈱は、この環境変化を成長する絶好の機会と捉え、シニアを意識した取り組みを行なっている。
超高齢社会の到来
年代別の購買行動を分析
イオン㈱・シニア戦略チームリーダーの谷島英明氏
6月8日、イオン㈱はシニアシフトの取り組みについての説明会を実施し、シニア戦略チームリーダーの谷島英明氏がイオングループのシニアシフトの取り組みについて、「これからのシニア層は非常にアクティブで、趣味や消費活動への意欲が旺盛であるため、今後シニア層が個人消費のけん引役になる」と説明した。
九州では2015年において、55歳以上の人口に占める割合が27.4%になると予想されている。また、高齢化問題は日本だけではなく、イオンが事業を展開しているアジア地域においても今後の重要課題の1つであるという。
イオンは、電子マネー「WAON」のデータを収集し、ファミリー層とシニア層の購買行動を研究してきた。その結果、シニア層は『自宅からの近隣店舗で平日の朝方を中心に高い頻度で購入する』という傾向が強いということが判明した。また、関東地区の店舗で収集したデータでは、年代別に1週間の買い物回数を見た場合、シニアの頻度が高く、60歳以上の50%以上は「1週間に4回以上」の頻度で購入があったという。一方、ファミリー層は、週末やセールが実施される火曜を中心にまとめ買いをする傾向が強いという。
この結果を受けてイオンは、ファミリー層への対応と同様に、ほぼ毎日来店するシニアを対象とした商品やサービスが必要と考えた。ファミリー層を対象として成長を遂げてきたイオンだが、今まで行なわれてきた営業時間の設定や商品選びや販促といった取り組みを見直し、シニア層のライフスタイルに適合したものを構築していく必要に迫られているのである。そして当面のターゲットと捉えているのが、シニアのなかでもとくに体力的にも経済的にもアクティブな『団塊の世代』だ。
シニア向けの商品や
サービスの充実を目指す
イオングループのプライベートブランド「トップバリュ」でも、シニア層の食へのこだわり、個食化、健康志向といったニーズに応えるための商品開発に力が入っている。たとえば、同グループの弁当・惣菜店チェーンの「オリジン弁当」と共同で、個食の容量の惣菜において、シニア層に人気のある商品を中心に据えたラインナップを随時増強しつつある。また、シニア層には少人数世帯が多いことから、少人数分では食材が揃えにくいメニューを、保存期間が長いことから非常に人気がある冷凍食品で提供する。
トップバリュ以外にもメーカーとの協業によるイオン専用商品の販売に力を入れる。イオンが企画設計し、12年4月から全国約50店舗で販売が開始された冷凍和菓子は、自然解凍で食べられること、冷凍により甘み・カロリー・糖分を控えることが可能となっている。
食品に関しては、午前中の惣菜はシニア層を意識し、少量ずつ小分けして販売するものを増やし、午後はファミリー層を意識して、量の多い惣菜の販売を強化している。
食品以外では、シニア世代の体形の変化に合わせてサイズ変更をした衣料品をPB(プライベート・ブランド)で販売。そのほか、イオン専用商品として、ワコールと共同開発した50代以上の体形に合わせた下着の販売も行なっている。また、「フェイスショップ」で知られる韓国・LG生活健康社との協業で、40代以上を対象とした新しいブランド化粧品を導入。セルフケアの化粧品市場では、40代以上の年代に向けた商品はまだ多くないことも導入に至った要因の1つだ。
イオンモール福津店
節電も意識して
早朝営業を開始
客層や社会状況の変化に対応していくことを重視するイオングループは、イオンやマックスバリュなどで6月1日から、順次、午前7時からの営業をスタートさせた。早朝に値引きなどの特典を導入するなどの企画も実施している。
シニア層は、午前中の買い物が多い傾向にあることから、早朝7時からの営業でも集客があると見ており、また、買い物の時間が午前中にシフトされる傾向にあるという。シニア層以外にも、通勤前に朝食や昼食などを購入する学生や会社員、朝子どもを幼稚園などに送り届けた後に買い物をして帰る主婦などの需要が多いようだ。
さらに今は、全国的に電力不足の問題がある。計画停電の実施も検討されているため、今夏はサマータイムを導入する会社が昨年以上に増えると予想されている。そうなれば、従来よりも早朝に活動する消費者は増えるだろう。また、シニア層は少量を毎日のように購入する傾向もあり、毎朝購入して固定客となる可能性も多いにある。イオンは今後もマーケティングを続け、シニア層のニーズにマッチした商品・サービスを提供していくことでシニア層の取り込みを図っていく。