2024年11月24日( 日 )

プレイボーイ創業者ヒュー・ヘフナーを偲ぶ(2)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

「プレイボーイ帝国」訪問記

 筆者は彼のお膳立てで、アメリカ各地のプレイボーイ・クラブやリゾートを訪ねたことがあった。1970年代のこと。当時、プレイボーイは全盛期。月刊誌は700万部を超える爆発的な売れ行き。それまでの猥雑なポルノ雑誌どころか一般の男性誌を寄せ付けない圧倒的なパワーを見せつけた。雑誌の成功をバックに、アメリカのみならず、海外にもカジノやクラブを次々にオープンし、正に破竹の勢いであった。
 ニューヨークのホテルからシカゴの本社に電話をすると、「出来立てのリゾートホテルがあるから、そこを見てほしい」とのこと。真夏のニューヨークの街角でタクシーを止め、電話で聞いた住所を運転手に伝えると、「本気か?」と妙な顔をされた。当時は筆者にとっては生まれた初めて訪れたニューヨークだったため、地理も不案内で、距離感もなかった。「つべこべ言わず、ここに連れて行ってくれ」と運転手を急かしたものだ。
 しかし、目的地に着くと、運転手が筆者の本気度を確かめたワケが分かった。ニューヨークでは半袖でタクシーに飛び乗ったのだが、到着地は何と皆がスキーを担いでいるではないか。大都会の喧騒から銀世界に飛び降りた感じがした。「ウェルカム、カズ!グレートゴージへ、ようこそ!」。待ち構えていたスタッフに案内されたところは、プレイボーイ社がオープンして間もない、ニュージャージー州はグレートゴージにそびえる「プレイボーイ・リゾート」であった。

100通の手紙が開いたヘフナーへの道

プレイボーイ誌創刊号

プレイボーイ誌創刊号

 当時大学3年生だった筆者は、アメリカの生の文化を知りたくて、アメリカから数か月遅れで届く「プレイボーイ」誌を愛読していた。当然のことながら、日本ではお目にかかれないプレイメイトと呼ばれる女性のヌード写真にも目を見張ったものだが、断っておくと、お目当てはむしろインタビュー記事の方であった。何しろ、政治家やビジネスマンに限らず、スポーツ界や音楽界の有名人や世界的で活躍する作家や科学者など、アメリカを代表するリーダーたちの生き生きとした語り口がわんさかあって魅力だった。

 インターネットなど存在しない時代である。CNNも生まれていない。衛星放送などもありえない話だ。そんな時代に、アメリカで生まれつつある自由で創造的な若者の鼓動を掻き立てたのが「プレイボーイ」誌だった。バートランド・ラッセル、ジャン・ポール・サルトル、マルコムX、マーチン・ルーサー・キングやジミー・カーターなど話題の人物に肉薄するインタビュー記事は刺激的だった。
 ところが、日本ではヌード写真が不謹慎だといった反応が大半。税関を通過する際、プレイメイトの写真には黒いインクで消される箇所が何カ所もあった。しかし、プレイメイトの写真に関していえば、それまでの雑誌とは比較にならないほど、モデルも美しく、写真の出来栄えも洗練されたものだった。日本のエロ本とは大違いだ。これこそ創業者であるヒュー・ヘフナーの思いを代弁しているに違いないと感心したものである。
 そう確信した筆者はヘフナーに手紙を書いた。相手の立場を想像して何通も書き送った。とはいえ、プレイボーイ帝国を築いているヘフナーの気持ちを忖度し、その気持ちをこちらに向けさせるのは容易ではなかった。しかし、それまでに読んできたインタビュー記事への感想から始まり、日本での「プレイボーイ」誌や“プレイボーイ”という存在そのもの対する誤解や偏見が根強いことに触れ、日本の若者が真のプレイボーイ哲学を学び、武士道に匹敵するような「プレイボーイ道」を目指すことが日本の若者に夢や希望を与えることになると信じる旨を書き綴った。日本での出版やイベントもアジア市場開拓へのステップになる、といったビジネスプランも書き添えた。

 かれこれ100通くらいは書いたと思う。ほとんどあきらめかけた頃、待望の返事が届いた。「ニューヨークに来い」との短い手紙だ。「着いたら、この番号に電話を」としか書かれていない。もちろん、それで十分だった。その時の高揚感はいまだに忘れられない。これが生まれて初めてのアメリカ訪問の始まりとなった。

(つづく)

<プロフィール>
hamada_prf浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

 
(1)
(3)

関連キーワード

関連記事