2024年12月25日( 水 )

衰退進む日本型GMS(総合スーパー) 歯止めがかからない現実(中)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

規模という力も絶対ではなくなる

 ウォルマートの場合、出店によって競合を倒し、売上が大きくなったところでさらに隣接して店舗を出し、より大きい地域シェアを狙う。しかし、思うような売上が確保できないときは“さっさと”撤退する。ウォルマートに潰された小売店が消えた後、そのウォルマートが撤退すれば、そこに残るのは「小売デザート(砂漠)」だ。地域住民はリアル店舗での買い物ができなくなる。以前はその対応はあまり考えなくてもよかった。しかし、今はそれを放置すれば、すぐさまアマゾンがやってくる。

 このようなウォルマートにさらなる危機が忍び寄ってきている。ここ数年、以前のように出店ができなくなってきているのだ。既存店舗の売上の伸びも鈍い。ガソリン販売を含めて年間売上高50兆円を超えるウォルマートだが、売上不振の対策として現在では出店よりIT投資に経営資源配分を強めている。M&Aの対象が小売と関係ないエリアに拡がっているのだ。

時代に合わせての投資とは…

 ウォルマートの場合、売上が1%の伸びでもその金額は5,000億円。2%なら1兆円だ。売上の規模から見れば、売上の伸長率が小さいのは仕方がないともいえる。しかし、販売管理費率の上昇を粗利益率の改善で補えなければ、営業利益は減少傾向をたどらざるを得ない。昨年も前期比較で販売管理費が5,000億円近く増えている。このことはウォルマートの既存セグメントと営業戦略の先行きの不安を暗示している。このような数値が示す経営の方向転換の必要性を見過ごして窮地に立った小売業は少なくない。破綻したシアーズだけでなく、アパレル大手小売のGAPにも同じような数値推移が見られたが経営陣は抜本的な手を打つことを怠り、先ごろの大量の店舗閉鎖に至っている。

 ウォルマートが将来を見据えて、新たな顧客アプローチに積極的にトライしている。1つがeコマースによる利便性の向上だ。セービングキャッチャーなど競合店の価格が安かった場合、同じ商品をその時点で購入した顧客に事後、その差額を割り引くという画期的な価格サービス、加えて、生鮮品の宅配など新たなトレンドへの対応に余念がない。

 もう1つがeコマース経由の販売力の拡充だ。「カーブサイドピックアップ」といわれる方法は、事前にアプリで注文し、店舗駐車場についたことを知らせれば従業員が車まで注文した商品を運んできてくれるサービスだ。

 さらに配送料はかかるものの、「ドアダッシュ」と提携し、オンデマンドの宅配サービスを行っている。今後は自社でクラウドを使い“特定多数”の個人宅配ドライバーを確保し、さらなる宅配サービスの充実も検討しているという。

 このような努力が昨年度の数値を見る限り、確実に実を結びつつある。昨年度の売上は出店が少ないにもかかわらず、約140億ドルも増加している。これらのことを考えると、今後の投資もリアル店舗よりeコマース中心になることは投資区分表から容易に予想される。

※クリックで拡大

(つづく)
【神戸 彲】

<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)

1947年、宮崎県生まれ。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

(前)
(後)

関連記事